ご覧のように外観はとても綺麗な車両。それもそのはず内外共にフルレストアと言う名目にて納車されてから数百キロしか走っていないコンプリート車両だからだ。そのような車両がなぜほぼ全バラとなる結末となったのか以下にて説明していこうと思います。

●オーナーの訴える不調の最たるものはひどい白煙の発生と低速域でのかぶり止まりだった。当然製作元へも相談は何度となくしたが慣らしが終わるまでは何とも言えない、かぶり現象に関してはスタンダードキャブレターを使っている以上ある程度は仕方が無い、納得がいかないのならリプレイスキャブレターに買い替えて下さい...という返事だった。素人ながらも慣らしが終わりあたりが付くことによって止るような類いの白煙でない事は分っていたし、またオーバーホール済キャブレターという事で低速でのかぶり現象等も納得がいかず以上の2点の原因追及と対処その他フレーム廻り等で気になる箇所の修復をご依頼頂いた。
●まずはヘッドカバーを開けてカムシャフトの取り外しにかかる。
●いきなりですがヘッドを降ろした状態、ピストンヘッドの状態からオイル侵入が夥しかった事が分る。 ●新品交換されているはずのテンショナーASSYやアイドラーギアはご覧のような状態。もちろん走行数百キロにてこのような状態になる事は考えられない。
●オイル侵入を物語るピストンヘッド。ひどい気筒ではリセス部分等にオイルが滞留している状態だった。
●初期型を物語る一枚一体型ヘッドガスケット。非常に強力な粘着性をもつケミカルが使用されガスケットを剥がすのも一苦労。
●オーナーは900cc純正オーバーサーズピストンと聞かされていたが使われていたのはMKII系スタンダードピストンで1015ccになっていた。 ●ご覧のように侵入したオイルが滞留している。
●シリンダースリーブ下部とブロック間に入るOリングは既に硬化しご覧のようにパキパキと割れてしまうような状態でOリングの役目は全く果たしていない。 ●シリンダー&ピストンを取り外した状態。これから腰下を車体から降ろす。
●取り外されたシリンダーヘッドのチェックに入る。カムメタルの当たり方を見る限りカムラインの狂いが疑われる。
●ヘッドの分解。インテークポート内にもオイル侵入を物語る跡がある。燃焼室は侵入したオイルの燃焼によりウェットカーボンの蓄積が著しい。
●分解されたバルブ廻り。インテークバルブは全体的にオイルでウェットな状態。ちなみにバルブステムシール等をはじめ消耗品類は殆どがアフターマーケット製品が使用されていた。
●バルブ廻りが全て外された状態で再度カムを組み付け慴動抵抗をチェックするが案の定規定トルクでカムホルダーを締め付けると手の力では全く回らない程カムラインがずれている状態だった。
●車体から降ろされた腰下。分解の前準備としてカバー類が外されていく。
●走行数百キロと聞いていた割にはご覧のようなスラッジが各部に溜まっていた。 ●オイルポンプフィルターメッシュにも細かな金属粉のようなものが無数にこびりついていた。
●オイルパン...の状態...
●クランクケースを上下分離した状態。
●各部にもひどい腐食痕が見て取れ、遠くない過去に腰下からリビルトされたエンジンという感じはしない。
●アウトプットシャフトに入るOリングも明らかに硬化しており、交換された形跡はない。またアウトプットシャフトベアリングも見た限りでは交換はされおらず相当の痛みが発生していた。オーバーホールの際トランスミッション関係は手つかずだったのだろうか?

●トランスミッションの分解チェックに取りかかるが、やはり手を付けられたような痕跡は見当たらない。基本的には分解時に再利用しないクリップ類等を見れば交換されていない事が一目瞭然。基本的にベアリング類は全て使い回している模様。

●クラッチもメタルプレートの焼け具合、腐食具合を見る限り新品には交換されていない。
●シリンダーヘッド上部冷却フィンに妙な筋が走っていた。なんだろうと思い軽く親指で押してみると....。
左のように簡単にフィンが取れてしまいました...。
適当な充填材にて接着されていたようです。
●全てのチェックを済ませたクランクシャフトをケースにセット。やっと組付けの開始となります。ちなみにこの時点で、ガソリンのオーバーフロー程度で剥離してしまうエンジンの塗装も焼き付け塗装をし直しました。
●リビルトされたトランスミッションに、ハブダンパーの消耗が見られたクラッチハブは新品J系ハブに交換しました。
●ボルトの貫通する穴ですが、なぜか楕円に...???
●クランクケース上下が合わさり各ボルトを適正なトルクと順序にて締め付けていきます。
●腰下が閉まり新たに純正新品シリンダースタッドボルトが打ち込まれます。面の荒れていたクランクケースデッキ面は最小値面研にて修正済。
●新品J系ハブに組み合わされるのはPAMSオリジナルクラッチキット。軽くて切れが良いと好評をいただいております。
●手持ちにあったSTDサイズ(903)スリーブ(メーカー欠品)を使い、今度こそ正真正銘の純正Z1オーバーサイズピストンを使用。各部のバリ等も入念に除去して組付けに望みます。
●コンロッドにピストンがセットされたところ。
●初期型で特徴的なセンターOリング溝のないシリンダーブロック。ボーリング、ホーニングは定番化しつつあるプラトーフィニッシュ。慣らし期間の短縮、初期なじみの向上、フリクションロスの低減等の効果が見込める。
●シリンダーブロックをインストールする。
●プラトーフィニッシュされたシリンダー壁と面研されたデッキ面が鈍く美しく輝く。ハンドクランキングでも慴動抵抗の低減は感じ取れるもの。
テンショナー、アイドラーギア等を組込んでいく。
●位置決まりが今ひとつ悪かったシフトドラム、チェンジロッド、その他の微調整にて良好に。
●新たに打ち替えられたバルブガイドはPAMSオリジナル鋳鉄製。もちろん加工にはオイル下がり対策済。 ●ヘッド組付けの用意。
●スプリングシートを入れ純正バルブステムシールを装着しバルブを挿入。 ●バルブスプリングの組み付け。スプリングは純正ながらZ1用ではないものを流用し、ここでもフリクションロスの低減を図る。
●バルブ等組付けの終了したシリンダーヘッド。こちらも修正面研された面が美しい。カムラインの修正も同時に済ませてある。
●初期型特有の一枚ものガスケットをセットしこれからヘッドが搭載される。
●ヘッドが搭載された状態。ここまでくればエンジンは9割型完成したようなもの。
●直進状態で右へ右へ車体が振られるというオーナーの訴えからシャーシ廻りのチェックに入る。 ●ダミーケースを搭載しマウントプレートをあてがってみるとご覧のように隙間が空いてしまう。これはフレームが歪んでいる事を意味している。ちなみにプレート本体に曲がりはない。
●ステアリングストッパー部も修正された跡があるがご覧のような状態で廻りも完全には修正されていない。
●ガセット部も全体的に歪み曲がりがあり修正する事に。
●修正治具の上にセットされたフレーム。フレームセンター、キャスターアングル等にも大きなズレがあったが、目視で見てもリアフレーム周辺も何やら不自然。レーザーを当ててもセンターが出ない。
●Rウィンカーステーは両側とも転倒の跡を物語る大きなダメージがあった。このステーはモナカ構造になっており中間にラバーブッシュが振動対策として入るようになっているがつぶれてしまっている為うまくブッシュが入れられていない状態だった。
●曲がったウィンカーマウントステーにそのままステーを取付けると水平角が出なくレンズが垂れ下がってしまった状態になってしまう為このようにゴム片を挟んでごまかしてあった。
●怪しいと思っていたRフレーム部分、よ〜く見ると溶接部分が不自然な事に気付く。軽くドライバーの柄でたたいてみるとご覧のようにボロボロと厚付けのパテが剥がれ落ちてくる。間に合わせの溶接にてRフレーム周辺は処理され厚付けパテにて仕上げられていた。パテを剥がすと一部では既に溶接が剥離し危険な状態に。一体このRフレーム廻りに何が起こっていたのだろう?
●各所に数ミリ単位でのパテ処理が施されている。
●このような箇所にもパテ処理の跡が...
●マフラーステー部にもカラーがかませてありフレームの歪みは製作時に既に気がついていたという事になる。
●スイングアームピポット部、フレームの内側。ご覧のように無造作に削られた跡がありスイングアームの横方向サポート寸法に問題が出ていた。以前に寸法違いのスイングアームでも無理に加工して取付けていたのであろうか?
●全体的に歪み曲がっていたガセット部とストッパーもご覧のように綺麗に修復した。
●修正の終わったフレームにリビルトの済んだエンジンを搭載する。
●元に付いていたSTDキャブレーターの程度があまりにも悪くPAMSのストックからフルリビルトして装着。オーナーはどうしてもSTDキャブレターで乗りたいという強いこだわりがありました。
●跡は外装を載せて完成。白煙の発生が止った事を確認するため、あえて仮のマフラーにて始動。装着されていたマフラーでは内部に残留するオイル分により白煙の発生の有無が判断に難しいからだ。 ●白煙の発生がない事を確認し本来の4本マフラーを装着、そして試乗を繰り返す。当初は内部に残留していたオイル分にてやはり白煙が発生したが試乗しているうちに徐々に白煙も止った。
●長らくお待たせしましたが試乗を重ねようやく陸送の手配。新車のようなZ1を期待しそれを大きく裏切られたオーナーの無念さは図り知れないが、生まれ変わったZ1を心から思い切り楽しんで頂きたいと思います。今回は遠方から大切な愛車をお任せ頂き有り難うございました。