Z1R-II型、I型と姿形は似ていてもII型はベースをMKIIとしたモデル。今回のトラブルも前回と同様走行中突然後輪ロックと言うシャレにならないことが起きた。ただ前回と異なるのは後輪がロックした原因が異なっていることだ。スプロケットやチェーンも目で見た限りは問題なく原因はエンジン内部にあると判断。オーナーとも打ち合わせをしてエンジンをばらしていくことにする。

●マフラーも含め全てオリジナル状態を保っているZIR-II型。これが入庫時の写真です。 ●エンジンを下ろす前にスプロケットカバーを外してみる。すると.....本来シールで密閉されているはずのシャフトカラーがご覧のように隙間が空いてしまっている。またシャフト自体のセンターがずれているのが分かるだろうか?
●Fエンジンマウントにフローティングマウント方式を採用するJ系は駆動力によってRエンジンマウントシャフトが曲がることがよくある。しかし前後ともにリジットマウントを採用するZ1Rではそのようなことはないはず。 ●今回はフレーム修正や電装系のリフレッシュもメニューに入っていたため外装やハーネス類等も外された。
●更にトランスミッションカバーを取り外してみると......なんとアウトプットシャフトを支えるベアリングがレースから粉々に砕かれ外れたボールがアッチコチに散乱している状態だった。ベアリングレースは鋼鉄で出来ており多少のことではこのように割れたりはしない。クランクケース自体にダメージが及んでいないことを願っていたのだが.....
●まずは腰上から順番にばらしていく。ヘッドを外すと見事にチェーンスライダーも破断していた。 ●正常であってもある程度のカーボンデポジットは蓄積するが、このような状態の場合明らかにオイル下がり等による異常なデポジットと言っていい。
●オイルパンを外す。すると粉々に砕かれた金属粉、金属片等が見られた。
●オイルポンプストレーナー。ここにもやはり金属片等が吸着されていた。 ●トランスミッションギア廻りにも様々な大きさの金属片が散らばりトランスミッション等で砕かれた様子が分かる。
●クランクロアケースが外れ腰下が姿を現す。 ●至る所に様々な金属片が散乱している。
●ここが今回1番の問題。アウトプットシャフトを支えるベアリングはこのように完全に破壊され、本来の機能は全く果たせない状態。
●最も懸念していたベアリングのサポート部。ベアリングの破損とともにケース側も大きなダメージを受けていた。
●念のためクランクセンターもチェックするが芯出し作業でなんとかなる状態だった。
●スタッフ全員で修理方法を協議した結果、欠損してしまったケースを修復するのはリスクが大きすぎると判断しオーナーにもその旨を伝え他の上下クランクケースを探して使うことにした。これはMKIIのケースだがZ1R-II型と共通なもの。他でも述べているが、ラインボーリング加工が施され仕上がっている部位に溶接等を施すのは出来れば避けたい。 ●新しいケースに載せられたクランクシャフトとトランスミッション。ダメージを受けていたギア等は全て交換されクラッチハブ等も当然リビルトした。折角あけたのだからという事でPAMSお得意の鏡面仕上げが各部に施された。シフトフィール等に効いてくる。
●ロアケースが載せられ閉じられた上下クランクケース。 ●トランスミッション系のベアリングは全て新品に交換され、新車同等のコンディションとなった。シフトドラムの輝きが眩しい。
●専用エンジンスタンドにて180°ヒックリ返されたエンジン。 ●腰上のオーバーホールも同時に行ったがオーナーのリクエストを取り入れ1105ccまでボアアップ。使用したのはワイセコ73mmピストン。
●ダミーヘッドを使用して行う精密ボーリングが施されたシリンダーがインストールされる。 ●ノーマルに比べ張力の強いピストンリングを傷めないよう最新の注意を払う。
●ワンウェイクラッチ廻りも全てフルリビルトした。これで圧縮の上がったエンジンも安心して始動できる。
●消耗していたバルブガイドはPAMSオリジナル対策ガイドに打ち変え。 ●熱処理のしっかりと施されたビッグバルブを使う。
●組み込みの終了したヘッド。シートリング等の段付きも全て取り去ってある。小さなこだわりかもしれないが、その積み重ねが大きな違いとなる。 ●シリンダーヘッドを上から覗く。今回はST-1カム使用のためメンテナンス性に優れるアウターシム仕様のまま。
●組み込まれたST-1カムシャフト。写真では分かりにくいと思うがPAMSで社外カムを組込む場合、全てのカムにエッジ処理を施している。アジャスタブルカムスプロケットを使用し、正確なバルブタイミングを設定している。
●チョットピンぼけしてますがブラストペイントが施されたエンジンは新車のような佇まいとなっています。
●完成したエンジンが修正の施された真っすぐなフレームに搭載される。
●ほぼオリジナル状態をとどめていたZ1R だがなぜかスイングアームだけが1000J系のものに交換されていた。形は似ているがそのまま装着しようとするとピポッと幅の狭いJ系スイングアームでは大きなガタツキが出てしまう。装着する際は専用のカラー等を削り出して装着しなければならないのだが、全くその対策がなされておらずスイングアームに大きなフレ幅があるままだった。

今回のトラブルの原因を一つにしぼるのは今となっては難しいが、この大きなスイングアームのガタツキが結果的にアウトプットシャフトへダメージを与えベアリング本体の破損を引き起こしトランスミッションのロックを引き起こした可能性がある。これは極端なオフセットスプロケットの使用やずれたままのチェーンラインで走行を繰り返す事によっても同じような負荷をアウトプットシャフト等に与える事となってしまう。
晴れて健康体となり再びオーナーに手渡されたZ1R。ロックしたエンジンの修復とOHはもちろんの事、曲がっていたフレームや電装系等にも手が入り以前とは比べ物にならない位乗っていて楽しいZに生まれ変わった。今回のトラブル(ロック)も仮に推測の通り間違ったスイングアームの組付けが原因だった場合、自然消耗から発生したものではなく人為的に発生したトラブルだと言ってもいいだろう。前回のFスプロケット脱落によるRタイヤロックに引き続いて我々も今までにも増し更に気を引き締めなければならないと心から思った。