昨日に引き続き、J系エンジン用Pistalピストンの形状確定を行うにあたり、組み込まれるエンジン側の個体差や加工公差も考慮する必要があります。
そこで、弊社の所有する寸法取り用のものや在庫品、更にご厚意に頼って借り出したものを含むいくつものJ系シリンダーヘッドを使用して各燃焼室に試作したピストンを組み合わせながら数値を採っています。
これは、カワサキ側での市販車としてのシリンダーヘッドの加工にも個体差があり、厳密に言えば機械加工されたシリンダーヘッドでも加工中心軸がコンマ台でずれている事も稀では無かったという経験に基づくものです。
さて、それとは別の話になりますが、Z1からKZ1000Mk2のZ1系エンジンは1973年モデル(1972年9月発売)から1980年迄の7年間生産販売された事に対し、J系エンジンは1981年モデルのZ1000Jから2005年最終型のZ1000P迄、後半は台数は少なくなったとは言え実に25年近くも生産されました。
3倍以上の年月を生きたJ系エンジンですが、実は途中で燃焼室の形状が変更されています。
左が初期のZ1000J 右が中期から最終型に向けてのZ1000Pヘッドです。
Z1系が半球形状の燃焼室で内部の全てが円周状に機械加工されており、初期のZ1000J系は、Z1系を踏襲してスキッシュエリアを加えた様な形状になっているのに対して、途中からインテークバルブ周辺が狭く、エキゾースト側に向かって広がっていく様に変更されています。
ちなみに後期Jヘッドの燃焼室外周の切削部分は初期の様に同心円になっていませんが、加工の軌道自体は円になっています。燃焼室形状が円形でない為にこの様な形状になっているわけです。
これに伴い、後期のJ系ヘッドはエキゾーストバルブの角度がほんの僅かですが立てられて、かつバルブの傘が燃焼室の中心から外に位置する様変更されています。
上の燃焼室の比較写真をよく見てみると、各バルブの間隔が違っている事がわかると思います。(左側のZ1000Pヘッドの方が約1.5倍広い)
この為ピストンヘッドのドームカーブ自体は初期も後期もほぼ変わりませんが、エキゾーストのバルブリセスの位置は変わります。
例えばこれがノーマルのカムであれば元々バルブリフト量も低いので問題にはならない事もありますが、ことチューニングして面研を行ったりハイカムを組んで相対的にバルブのリフト高さが増えると、初期のJ系の時代に設計されて販売が続けられているアフターマーケットのJ系エンジン用ハイコンプピストンの場合、エキゾーストバルブがバルブリセスの外側、ピストンヘッドと接触という様な事が起こったりします。
例えば下の写真がその例で、バルブがリセスを外れてギリギリ外周部にヒットしている事がわかります。
もちろんこれが全てに当てはまるという事では無く、社外ピストンの中にはビッグバルブとハイカムを見越しての事なのかバルブリセスの径や深さが非常に大きなものもありますので、後期J系ヘッドを載せても当たらないものもある様です。
但し、J系エンジンのチューニングを行うのであれば、分解時に燃焼室の形状を確認して、場合によっては仮組を繰り返してリセスのマージンを確認しながらのセットアップが必要であると憶えておくのが間違いありません。
例えば初期の車両やエンジンであっても後期のヘッドに載せ替えられているという事や、傷んだシリンダーヘッドを自身で交換する際に入手したヘッドが後期型という場合もあると思いますので。