Z1系用ラインナップ中、異色とも言える66mmピストンです。
何が異色か?
66mmと言えばZ1のノーマルボアサイズ。
昨今のメッキシリンダー車用ピストンであればノーマルピストンに入れ替えのみで組むタイプのものは存在しますが、Z1系エンジンの場合は現状走っていても少なからずスリーブが摩耗している事が前提となります為、アフターマーケットピストンはノーマルエンジンのシリンダーブロックにオーバーサイズとしてボーリングして組み込みするものが通常です。
この為、66mmピストンを使うのであれば純正のシリンダーブロックのスリーブを必ず交換して再ボーリングせねばなりません。
それでもどうしてもラインナップに加えたかったのは、最も最初に生産された66mmボア66mmストロークというZ1オリジナルのスクエアボアストローク比を再現したかったのと、現代のガソリンやオイルを使う事を前提に設計した場合、排気量の拡大無しにどこまで性能アップが出来るかを実現したかったからです。
例えばですが、Z1のオリジナルの圧縮比は8.5:1 で、同じ空冷でも後半のZ1000J系やGPz系、もしくは昨今の空冷エンジンに比較しても低めの設定です。これは1970年代初期に米国にて販売されるにあたり現地で普通に給油が可能なガソリンのオクタン価や特性に合わせて設定されたものであるとも思われます。
これを基準圧縮比10.0:1で設計し、更に弊社にて設定するガスケットの厚さバリエーションにて9.2~10.26:1の幅で選択組み立てが行える様にしました。
参考迄に、日本国内仕様で若干圧縮比がZ1より高いノーマルのZ2は、9.0:1
そこから最小限のハイカムを組み込みしたりハイコンプ化でチューニングを狙うのであれば10.26:1迄調整が可能です。
又、ここ数年でZ1のオーバーサイズピストンもカワサキよりの供給が終了する可能性も高く、そうなった場合でも若干の手直しのみで、純正の8.5:1に変更して純正キャブ等を使用したオリジナル車両に対応出来る設計としました。
ピストンヘッドのデザインですが、ピストンサイズ毎に推奨するカムリフトを設定し、バルブリセスの深さを適正化しています。
例えばこの66mmの場合はカムメーカー各社のST1と呼ばれるクラスのカム迄が対応としていますが、この為アフターマーケット用ピストンとしてはバルブリセスが浅目です。
リセスの深さで失われる分が少ない為にピストンヘッドを盛り上げる必要が無く、圧縮比10.0:1の割にピストントップはあまり高くなっていないのがわかるでしょうか。
一般的にピストントップの凹凸は少なければ混合気の圧縮や燃焼に排気の流れはスムーズになりますし、燃焼室容積に対しての表面積比は良好なものになり、燃焼時の熱効率も向上しますので、それを狙ってのものです。
ピストンスカートの長さは純正等に比較しても相当に短くなっています。
又、鍛造製法のメリットを最大限に生かす為、かなりの薄さに仕上げています。
特徴的なのはピストンの裏面です。
ストローク66mmでピストンピン上の長さはZ1に組み付ける以上変更は出来ません。
ただ、ボアが小さ目の場合はピストンの縦横比がスクエアに近い分重量配分が上側に寄りがちです。
そこでやはり鍛造の特徴を生かしてリブ構造にしてピストントップの薄肉化を図りながら軽量化と強度、剛性の高さをバランスさせています。
ピストンピンボス部分の剛性を高め、高負荷時にもフロー構造のピンがスムーズに動く様左右を繋ぐ様にリブを入れたセミダブルブリッジとしています。
又、ピストン背面がリブ構造となる事で、空冷フィンの様にケース内部の空気やオイルとの接触面積を増やし、高速で上下するピストン背面の冷却効率を高めます。
ピンボス部の剛性が高い分、ピストンピンも短くされています。ピンは鋼ですので更に全体重量は軽くなり、更にピンボスサイドよりピストントップに向かってオーバーハング状に肉抜きしています。
これにより更にトップ方向の軽量化と重量配分を適正化しています。
最新のピストンには軽さが求められるのはもちろんですが、優先されるのは数値としてでは無く、剛性や重量配分とのバランスが大事になります。
ピストンリングは21世紀基準のものを採用し、シール性はもちろん耐摩耗性においても大きなアドバンテージを持たせています。
さて、この66mmピストン。
何よりも現代基準で気兼ねなく扱えて尚、耐久性と長寿命を維持出来るエンジンが欲しい。もしくは、排気量をアップする事無くどこまでZ1の性能をアップ出来るかにもチャレンジしたいというユーザーに使っていただきたいと思います。
当社では長年の走行でブロックに対しての緩みが起き易いZ1系空冷ブロック用にオーバーサイズのESTスリーブを用意していますので、これが使用可能です。
66-OS(オーバーサイズ)と呼称していますが、これでオリジナルボアのシリンダーブロックが再生出来ます。
表面に施した銅コーティングが、アルミのシリンダーブロックとの分子レベルでの密着度を維持する事で熱伝導性の向上はもちろん、ブロックとスリーブの温度差を縮める事で長期に渡っての緩みを防止します。