Z系のシリンダーブロックとスリーブです。
スリーブを抜き取った状態のものを一般ユーザーが見られる事はあまり無いとは思いますが、写真でなく現物を手に取って見てみると意外な程に軽く、各気筒間に通風用の穴も開いていますので、それ程ごついアルミの塊といった印象は受けないと思います。
さて、長年使ったZ系のシリンダーブロックでは、スリーブの圧入が緩んで動いてしまう傾向が強いという事はある程度知識のあるユーザーの間では既にご承知の通りです。
押してもスリーブは動かないので大丈夫と思っていても実はぎりぎりの状態で、夏場に日射しの当たる場所に置いていたのみでスリーブが抜けて来たなどという個体があったりします。
この為もあるとは思うのですが、スリーブをオーバーサイズに交換される際に緩まない様きつめのクリアランスで出来ませんか?もしくはやってもいいですかと言われる場合が割とあります。
結論から言えば、一般的なクリアランスを守って(チューン内容や使用目的によって僅かな上下はさせるにしても)やるのが間違いはありません。
きつめのクリアランスで入れたとしても、シリンダースリーブが緩むのは熱くなったシリンダーブロックが冷却される際のアルミと鋳鉄の膨張差によるものです。
(単純に何万kmという距離ではなく、何度シリンダーを熱くして冷やしたかという回数の多さで決まりますので、ツーリング等がメインであったりして一度あたりの走行距離が長い車両は走行距離の割に緩みの進行はそれ程では無かったりします。)
但し、これは長年使っている空冷シリンダーでは程度の差はあれ必ず発生します。
この為、きつく入れれば防止できるというものでも無く、結局いずれは広がってしまいます。
又、クリアランスを詰めて入れてしまうと、本来平面である筈のシリンダーブロックの下面がスリーブの周辺だけ持ち上がって歪んだりしているものを見る事もあります。
ブロック上面はスリーブ交換時に面研されるのが普通なので、平面にはなっていますが、下側が波打ったり歪んでしまうのではせっかく手間をかけたブロックの上下平行にも狂いが生じます。
更に問題はブロック上下にあるドエルピンの間隔です。
下側にはケース側、上側にはヘッド側との位置を決める為のドエルピンがあります。
例えばですが、スリーブをきつく入れる様にブロック側の穴を小さ目にするとブロックが横方向にコンマ台で広がってしまい、ドエルピンの間隔も大きくなってしまいます。
下写真はイメージですが、穴部分を内側から広げる様に広げると、ブロック全体が横方向に大きくなってしまうのがイメージとしてわかるでしょうか?
左右のドエルピン間隔が広がってしまった結果、ケースの上にブロックを入れようとすると入らず、ヘッドを載せようとすればドエルピン部分で何だか引っかかって収まりが悪いという現象が生じます。
これはほんのコンマ数mmの事なので、ヘッドナットと両サイドのボルトを締め付けてしまえば組めない事はありませんが、結果としてブロックやヘッド側にも妙なストレスが加わる事になります。
それではせっかく精密にボーリングや面研の加工を行ってもそれが生かせなくなってしまいますので、シリンダースリーブの交換圧入時には必要以上にきつめのクリアランスでは行われない事をお勧めしています。
緩まない様にと思われる気持ちもわかりますが、適切に組んで適切に使えば相当な期間使えますからご安心下さい。