さて、昨日の記事にてアップしました通り、純正の新品パーツをわざわざ分解加工して使用する理由です。
結果から先に申し上げますと、この近年でカワサキより出荷された純正のテンショナーアームの中に、Z系が新車当時に組み込みされていたと思われるものに対して明らかに軸部の品質硬度が低いと思われるものが混在する様になった事にあります。
弊社には様々なZ系車両が日々入庫しており、エンジンの整備を行うものも少なく無いのですが、近年のオーバーホールでその際にテンショナーアームを交換されているにも関わらずゴムローラーの軸部のガタが妙に大きい為、それらを実際に分解してみるとベアリングの負荷がかかる方向の摩耗が激しいものが多数確認出来ました。
確認の為、現在入手出来る新品のものとエンジン分解歴が無いとされる中古車両から摘出したものを比較します。 ちなみに、リベットピンのかしめ形状が現代の純正部品とは異なり、大き目のドーム状になっています。
分解した新旧品。上は現在入手可能な新品で、下は4万km程走行したオーバーホール歴の無い中古車から取り外したものになります。
リベットのかしめ部を除去すると、見た目や寸法の違いはありません。
ニードルベアリングの軸となるローラーシャフト
同じく上が新品、下は中古品はそれなりの走行距離にも関わらずベアリングによる摩耗や寸法変化は見られません。
簡易な判断方法としてですが、軸部分にそれぞれ文具用カッターの刃を当ててみます。
新品の方は柔らかく、簡単に切り込む事が出来ます。明らかに爪が引っ掛かる程度で、刃を斜めに入れれば表面を削ぐようにする事も可能です。
中古車から摘出したものは元々摩耗もしておりませんでしたが、文具用の刃物を人間の手で当てた程度では擦り痕一つ付きません。
さて、ニードルベアリングで荷重のかかるこの部分に必要な硬度は、ベアリングメーカーによればHRC58~60以上が推奨指定されています。
弊社では近年に整備された車両でこの部分の摩耗が早いものがあるのも妙だと思い、数値で確認する為に複数の公的機関に硬度測定を依頼しました。
結果、当時の車両から摘出した摩耗していないものはHRC60.5です。推奨指定値通りです。
使用後に摩耗の大きなものはHRC値では測定限界を下回る硬度でした。別基準HRA値で測定して、やっと数値を付けられるレベルのかなり柔らかいものでした。
この為弊社としては、純正部品の供給元であるカワサキに部品販社を通じて 「通常環境での使用上でも極端に早く摩耗してしまう可能性のあるものが混在している」と、サンプルを含めて何度かレポートを上げて報告いたしました。
但し、いただきましたお返事では、 「新車時代からの設計時の仕様書通りに製作されている部品であるので、現在販売されているもので問題は無い。」
との回答でした。
Zは新車設計から既に半世紀が経とうかと言う車両です。当時の純正部品が製造現場レベルの判断で何かしら変更されていたとしても、既に記録が残っていない可能性もあります。
又、パーツや車両は仕様変更があり得るものですので、昔のものの方が良かったと申し入れても、メーカーとしてはそれに対応する義務が無いという事もあるかも知れません。
ただ、実際に現代の現場でZのエンジンを組んでいる我々の考え方として、明らかに従来のものに対して強度が低くて消耗が早いものが混在している事を認識した現状で、そういった部品をそのまま使用するわけにはいきませんでした。
この為対策品としてベアリングメーカーが推奨する硬度と品質を持ったニードルローラーシャフトと、専用のかしめピンを独自に製作しました。
回り止めを持つ形状のシャフト部は、高速回転するニードルベアリングに対応出来る軸受け鋼に、熱処理と研磨仕上げを施してあります。
もちろん、純正当時のものを上回る表面硬度です。
現在整備に使用する純正品に関しては、純正のベアリングシャフトを必ずこれに組み換えし、更に新品のピンを専用プレスでかしめています。
さて、現状ではベアリングシャフトとピンのみでの一般販売は行いません。
分解組み立ての技術力を確認出来ております弊社協力店に対してのみの供給としております。
ただ、要望があれば純正テンショナーアームをベースとして組み換えしたRefined(リファインド)品としての供給対応を行う事は可能ですので、お問い合わせ下さい。
‐価格の方は、ベースとなる純正部品込みにて税別¥12,000となります。
この部品は消耗部品ではありますが、せめてZが新車であった時代での適切な寿命を保っていただきたいものです。
又、適切な硬度を持った昔のタイプや弊社で組み直ししたものと異なり、軸部が偏摩耗したテンショナーアームをそのままに使い続けるとかなりの問題になります。次回はその例を見ていただき、メンテナンスの目安とご注意をいただきたく思います。
一例としてですが、これは偏摩耗によりローラー軸が完全にロックしたまま走行を続けられたものです。