以前にZ系の油圧測定について、普通のスケールのものでは測定が難しい程アイドリング時の油圧が低いので、弊社ではその領域を測定するのに専用のメーターを使用していると、記事にしました。
さて、単純に油圧のみの話で言えば、弊社が専門に取り扱うZ系エンジンのアイドリング油圧は、それ以降の車両の1/10程度以下です。
本当にこれで大丈夫なのかと言われる場合もあるのですが、油圧が低いのはZ系エンジンの構造によるもので、実はオイルポンプが正常であればアイドリング中でも必要なオイル量は流れています。
それでは何故に油圧が低いかですが、それはZ系のクランクシャフトの構造によるものが大きいです。
Z系は組み立て式クランクで、ニードルベアリング支持のクランクジャーナルとコンロッド大端部が特徴ですが、この構造はZ系以外に広く使われているプレーンメタル方式に比べると下の写真の様に横方向の隙間が非常に大きくなっています為、供給されたオイルはどんどん横方向に抜けていく構造になっています。
これが現代では多数派のプレーンメタルタイプだと、軸とメタルの僅かなクリアランス(最大でも0.1mm以下です)しか隙間はありませんので、どれほど広いかがわかります。
さて、ホースから水を出す際の事を想像してみていただけるとわかりますが、ホース先端をフリーにしてやると水はダバダバと大量に流れては行きますが、ホース外周に圧力を感じる事はありません。
ところが、ホース出口を絞ってやると先端から出る水の量は勢いを増しますが、実際の量はむしろ下がり、絞っているホースより後方はホースが膨れる様に圧力が上がるでしょう。
上記の例の様に、オイルの吐出先出口の抜けが良ければ相対的に油圧は下がると言う事です。
Z系エンジンの油圧の低さは、別にオイルポンプの性能が極端に劣っているわけでは無く、その構造自体に理由があるわけです。
通常、運転状態のエンジンの潤滑状態を知るのには、油圧を目安にする場合が多いのですが、これは流れるオイルの量そのものを測定してモニターするのが困難である為、エンジンの種類個別に正常時の基準油圧を設定して、それの上下をチェックします。
但し、Z系の様な転がりベアリングタイプのエンジンの場合はその基準自体が異なるわけですから、油圧基準の低さを問題視するのは明らかにナンセンスです。
油圧とオイルの流量を混同すべきではありません。 重要なのは実際に流れるオイルの量であるとご理解下さい。
ちなみに、Z系の純正オイルポンプの吐出容量ですが、実際に測定してみるとアイドリング中でも極端に少ないと言うわけではなかったりします。
油圧は低いけれど量はそれなりに流れているというわけで、Z系同様に転がりベアリングを使う2サイクルのクランクシャフトが混合気中に混ぜられた僅かなエンジンオイルで潤滑されている事を考えれば、むしろZのクランクシャフトは充分以上なオイルが与えられていると考える事が出来ます。
又、シリンダーヘッド側の潤滑についても同様で、Zの場合カムシャフトに大きな接触面圧の発生するロッカーアームが存在しません為、オイルは適量挿す程度にラインから与えられていれば潤滑不良になる事は経験上ありません。
Zの現役当時に24時間耐久を行ったレーサーにおいても大きな問題にはなっていない程です。
カムシャフトのジャーナル部分に焼けや摩耗が起きている場合は、むしろオイルの品質やメタルとのクリアランスの不足等の問題による場合が多いです。