新年明けよりかなり衝撃的な写真ですが、これはテンショナーアームの写真です。
カムチェーンをガイドしながら弛みを適正に保つ為のテンショナーアームについては、弊社ではシリンダーブロックやヘッドの熱膨張による温間時のカムチェーンの負担を考えて、特にストリートではゴムローラータイプのものを推奨しています。
ただ、ここ数年の間に出荷されたカワサキの純正テンショナーアーム(品番12048-001)の中に、ローラ―を稼働させる為のベアリング軸としての硬度が明らかに不足していると思われるものがあるという検証記事を昨年から何度か取り上げています。
軸部分の硬度が不足しているからと言って即日最初の写真の様になるわけではありませんが、ちなみに以下の写真は各々が数千km走行したものです。
ローラ―自体はまだ問題無く回転出来、ゴムもまだまだ弾性がある状態です。
触っても問題ありそうなほどのガタは無さそうに感じられますが、カシメ部分を外して軸部分を確認すると、ニードルベアリングの当たる軸部分が既に摩耗が始まっているのがわかります。
最初の写真の様にゴム部分が削られて無くなっている写真のみを見ると、ゴムの耐久性や接着品質が悪いからカムチェーンの負荷に耐えられないのではと思われる事があったかも知れませんが、実際にはローラ―のゴム部分にはさしたる消耗も見られない状態で、既に軸部の編摩耗はこの様に進行してしまっているわけですので、原因はやはりこの部分の硬度不足と言う事になります。
現状弊社で見ている限り、走行使用条件や使用しているカムチェーンテンショナーにもよりますが、該当するテンショナーアームを使い続けた場合、いずれ軸部は完全に編摩耗してニードルベアリングが破損、ローラ―はロックしてカムチェーンでゴム部分が削り落される様な症状が起こる可能性が大となります。
ローラ―がロックしたテンショナーアームを分解すると、編摩耗してクリアランスが過大になった為にベアリングが破損して詰まっています。
こうなると当然カムチェーンの張りを適正に保つ事は難しくなります。
場合によっては純正のカムチェーンテンショナーで調整出来る範囲も越えてきますので、弛んだチェーンが遊ぶ音がかなり大きく聞こえてきます。
大事なのはこの時点で気付きエンジン整備を行えば良いのですが、音が聞こえるのはテンショナーの性能が低いからだと思われて、よりテンションの高いオートカムチェーンテンショナーやマニュアルテンショナー等を使用して音が消えるまで押し込まれてしまう場合がある様です。
そもそも弛みが出るのは、元々テンショナーアームのローラー軸部がロックしてしまっている事に原因がありますので、より強く押し込んでもローラーは更に大きく削れていくだけです。
張ってみた当初こそカムチェーンの音が静かになった様に思えますが、当然症状は更に進行しますので、すぐにチェーンは弛んで再発します。
それを繰り返していくうちにゴム部分が完全に無くなり、露出した金属軸とカムチェーンが激しく当たる事で激しい異音が出た時点で開けてみたのが一番上の写真です。
ここまでになると、金属軸をダイレクトに叩き続けたカムチェーンは酷く傷んでしまっており破断の可能性もあります。更に大きく弛んだ状態にもなっていますので、ハイカム等を入れたりチューニングしているエンジンの場合はアクセルオフ時にバルブとピストンヘッドが当たる場合もあります。
オイルパンには破砕されたゴムローラーの欠片や金属粉が大量に落ちています。
オイルフィルター室のカバーを取り外したところ、ここまで金属粉は侵入しています。
フィルター室の前にはオイルポンプがあるのですが、ポンプのメッシュのストレーナーを抜ける程度の鉄粉は通過する際にポンプ内部を傷めますので、限度を超えるとポンプが使用不能になる可能性もあります。
この様にカムチェーンやそのガイド廻りからの音が出ている場合にテンショナーの調整をしても音が消えないかすぐに又音が出てしまう場合は上記の様に純正のテンショナーアームに問題が起きている可能性が大ですので、速やかに点検整備を行う事を推奨します。
本来テンショナーアームを含むガイド廻りやカムチェーンが正常であれば、Z系初期のセミオートタイプテンショナーでも適切に調整すれば音は消える筈ですので。
又、弊社を含むオートテンショナーやマニュアルテンショナーは本来は正常なエンジンに対して使われて意味のあるものです。
音が出るからそれを消す為という目的で使われるべきものではありませんし、無理なチェーンの張り方はエンジンに重大な破損をもたらす可能性もありますのでご注意ください。
さて、交換の為のテンショナーアームについてですが、これの部品供給状況についても又別途記事にします。