Z系を含む空冷エンジンは、燃焼室で発生した熱はシリンダーヘッドから大気に直接放出します。
水冷エンジンの様にシリンダーヘッドやブロック内に満たされたラジエター液を暖める必要が無い分、実はエンジン始動後の暖機運転による温度上昇は非常に早くなります。
実際に測定してみましょう。
始動する瞬間です。この日は日中暖かかった為、オイルとシリンダーヘッドは約20℃と気温とほぼ同じ温度になっています。
約33秒後 オイルは0.1℃の20.5℃と、ほとんど変化はありませんがヘッド表面の温度は22℃上昇し、42℃となりました。
この時点で既にアイドリングは安定し、アクセルを戻してもストールはしません。
正常なエンジンであれば、ヘッドを含む全体に油圧はかかっていますし、丁寧にクラッチを繋ぎながらアクセルワークに気をつけながらゆっくりと走り出す事も可能です。
2分26秒後 オイルは約6℃上昇の25.9℃。
ヘッドは50℃上昇して70℃を越え、既に素手で触る事は出来ません。
3分38秒 オイルは約9℃の上昇で29.2℃ですが、殆ど上がったという感じはありません。
ヘッドは73℃上がって93℃となり、水冷エンジンの水温であれば既に高目の温度です。
4分22秒 オイルは約10℃のプラスで30.9℃
ヘッドは95℃プラスで115℃となりました。ヘッド温度のみであれば暖機は必要充分ですが、オイルはさほど温度が上がっていませんのでまだかなり粘度も高いままです。
5分4秒 オイルはやっと25℃上がりましたが 既にヘッド温度は105℃上昇の125℃となり、これはこの時期普通に走行中での温度です。
この様に停車中の空冷エンジンのシリンダーヘッド温度は、始動後にはみるみる上昇して短時間の間に燃焼状態的には安定する様になります。
反面、水冷エンジンの様に熱分布が均一ではありませんので、シリンダーブロック側は割と温度は低いままですから、負荷をかけての運転には適しません。
又、ヘッドの温度に対してエンジンオイルの温度はなかなか上昇しません。
これが何を意味するかと言えば、Z系の様なクラシックな空冷エンジンにおいて、エンジンオイルは最も運転状態に重要なシリンダーヘッドの熱をさほど下げてはいないという事になります。
更に外気温が20℃程度の季節ではなかなかオイルは適温に達しない為、フリクションのロスにもなります。
これがゆっくりでも走行状態になると、若干ながらも風が流れる事でヘッドの温度は下がり、エンジン全体の温度も安定してきますし、オイルの温度も僅かにながらも適温に近づきます。
ちなみに、弊社でZ系エンジンをインジェクション化する際に、始動時の燃料増量や暖機状態の判断にシリンダーヘッド温度をパラメーターとして使うのは上記の理由からです。
以上の事からも、Z系の空冷エンジンでは特にヘッドは暖まり易いのですから、始動後にエンジン回転が安定したらゆっくりと負荷をかけずに走り出して徐々にオイルを含めて全体的に暖めていく事を推奨します。
具体的には、急激なアクセルオープンを避けながら2,500~3,000rpm程度で早目のシフトアップ。それでも坂道等の登り等では一つ下のギアで。
要は自分が自転車を漕いでいるいる様な間隔で、楽にゆっくりと走れる様にする事です。
逆にダラダラと長時間、停車状態で暖機してもシリンダーヘッドのみが温度が上昇するだけ、シリンダーブロックやオイルは写真の通りぬるくて固いままですので抵抗になり、パワーロスも大きくなり本調子ではありません。
むしろその状態で 無理矢理スロットルを開けてはエンジンにも良くないでしょう。