さて、前回お見せした、当時の検討用のメタルガスケット図面です。
ちなみにこのままの形状で製作すると、ビードがシリンダーブロック側でオイルストッパーの役目を果たしません。
Z系のシリンダーブロックには下面から肉抜きと通風の為の穴が開けてあり、キャップで塞いではあるもののその穴を通る様にビードが入っていては意味が無いからです。
ちなみにこの穴は初期のZ系の場合は前側と後ろ側に、Z系後期のものとJ系の場合は車体前方(エキゾースト側)のみにあります。
もちろんこの図面はビードラインの検討用ですので、ブロック側の加工穴を避ける様にビードラインを修正し、メタルガスケットで製作する事は可能だったのですが、それ以前に最も大きな問題は、ベースガスケットの当たり面の荒れでした。
このサンプルの例はまだ状態は良好な方で、当時でも既に何度か整備の為に分解履歴のあるZは多く、以前に手荒にガスケット剥離の為の作業を行われた為にガスケットの当たり面に傷が多かったり、もしくは初期のアスベスト系ガスケットはアルミの面に腐食を生じ易く、表面に柔軟なラバーコーティングが施してあってもメタルガスケットでは滲み出ようとするオイルをシールしきれない可能性があった為です。
例えば、過去のガスケット清掃時に、ガスケット面に以下の様に窪んだ傷が入ってしまっている場合、メタルガスケットのプレスビードや表面のラバーではオイルをシール仕切れない可能性が高くなります。
元々各種のガスケットを、特にこのベースガスケットを製作しようと思い立ったのは、この様な荒れた面でもオイルを滲まさないものが欲しいというのが理由だった為、こういった面に使われる可能性もあるとなれば柔軟性と密着性に勝るカーボングラファイト素材を選ぶ事になりました。
カーボングラファイトの場合はその滑り特性と初期の柔軟性により若干窪んだ面にも密着する事でシールが可能になる為です。
もちろん、カーボングラファイトガスケットにも利点ばかりがあるわけではありません。
上記の通りその柔軟性でシール効果を保つ素材ですので、新品時に組み込みした時点と使用開始後にも潰れが発生し、厚さが落ち着く迄に多少の時間が必要です。
潰れ幅としては組んだ時点で元寸法の約10% カーボングラファイトガスケットの新品時厚さが0.5mmであれば約0.45mm、そこから走行を続けると更に5パーセント弱圧縮されます。
この為、エンジンを組み立てて火を入れ、ある程度の距離や時間を運転した後には、必ずヘッドナットの増し締めが必要になります。
その昔に空冷バイクの新車を購入された経験があればわかりますが、1,000km点検時には必ずシリンダーヘッドの増し締めが整備項目にあった事を憶えているのでは無いでしょうか。
ちなみに、前回の記事で記載したゼファー750ですが、後期にはベースガスケットがニトリル系ゴム(NBR)でコーティングされたビード入りメタルタイプに変更されました。
厚さは新品時点で0.45mmとなっています。
NBRはヘッドガスケットにコーティングされているフッ素系のものより柔軟で圧縮復元性が高く、又ゴム層自体が0.125mmと厚い為に僅かな潰れは起きますが、それでもカーボングラファイトに比較すると非常に小さいものです。
この為、後期のゼファー750では1000km点検でのヘッドナットのトルクチェックを行ってもほぼ増し締め迄には至らないレベルとなりました。
ただ、ゼファー750がメタルガスケットを使用できるのは、あくまで新車状態のガスケット面や腐食していない状態の良い状態で組めるからでもあります。
従って、空冷Zでも同様に腐食しておらずに過去のガスケット剥離作業も丁寧に行われて状態の良いガスケット面、もしくはエンジンオーバーホール時にクランケースやスリーブ交換時にブロック下面に面研を施した車両については同様なタイプのビード入りメタルタイプは有効です。
その場合、組み立て後に何度か行う増し締め作業も最小限になりますし、特に圧縮比を高める様な社外ピストンを組み込みする際には特に有効になります。
この様にガスケット面の条件によってはメタルガスケットを使用し、その場合はブロック面に対してより適正なシール圧をかける事が出来ます。
さて、現在弊社でスリーブを交換する場合には、ほぼ必ずブロック面下部を面研しており、更にクランケース上面も同様に面研を施す場合も多いです。
そういった車両向けに選択可能な様に、NBRコーティングのビードライン入りメタルガスケットをあらためてラインナップに追加する事にしました。
11年前に検討途中で中断して眠らせた図面に対して正しい位置にビードラインを修正し、更にいくつか新しくラインやメタル化により可能になった工夫を追加したものを既に製作いたしました。
既に先行品として、いくつかの社内エンジンや取引先業者様への供給も開始しています。
厚さは純正レベルの0.45㎜と、より圧縮比を上げたい場合用の0.38㎜です。
ラインナップや詳細については又再度紹介いたしますが、今組んでるエンジンに導入されたいとお急ぎの場合はメールやお電話等でお問い合わせ下さい。
価格は既に決定しており、¥2,800/枚(税込¥3,080) となります。