これは、Z系初期のオイルポンプです。
後期からJ系にかけての物とは、若干蓋の形状とオイルを吸い込みする側のストレーナーの組み込み構造が異なります。
ねじ止め式のオイルストレーナーメッシュ。
中期型以降は外周部分がゴムタイプのストレーナーを圧入するタイプになりました。
ボディ下面には、MADE IN JAPANの文字があります。
当方、この初期型ポンプのボディのほぼ未使用新品のものを分解測定した事がありますが、ダイキャストの品質や内部の加工精度に関して言えば、最後期の新品をむしろ上回っていた記憶があります。
さて、この初期型オイルポンプ。
後期のものに比べると吐出容量が少なく、GPz系やJ系後期のものに交換すると容量アップになるなどと言われている場合が多いのですが、実際には駆動用ギアに接続するピン径が途中3mmから4mmにアップされた程度で、内部のポンプギアそのもののサイズや形状は全く同じです。
この為最終型迄、構造上の吐出量そのものは変わりません。
こちらは初期型のギア。
こちらはGPzや最終型のJ系Z1000ポリスの新品ポンプです。
基本的に同じものにも関わらず、何故GPzの方が容量が多いと言う誤解が生じたかと言えば、オイルポンプは長年使用すると消耗して吐出力が低下するからです。
初期型のポンプは新品時精度は良くてもその分使用期間は長く、その低下度は大きくなりオイルランプが点灯する等の不具合が生じます。そこへその時点で入手出来た新品もしくそれに近いポンプを組み込んでみたらそれが解消出来た事を見て、後期のタイプの方がより性能が高いと誤解されて受け取られる様になったのでは無いかと推察します。
現実には消耗したものを交換する事で元の機能が回復したと言う事になります。
それではどんな風に消耗するかです。
オイルポンプは上側のギア軸に駆動用のギアが装着されて、クランクシャフトで回されます。
ただ、径の大きなスチール製ニードルベアリングで頑丈に固定されているクランクシャフトに対して、オイルポンプのギア軸を支えているポンプケースの軸はアルミ製でしかも細くなっています。
この為、エンジンの稼働中ギア軸は下(厳密には若干斜め下)方向に向かって押す力が働き、この為にボディ側の軸穴は縦方向に摩耗します。
特に最も摩耗の大きいのは、駆動ギアを支えるカバー側の軸穴です。
この動画の様にギアが縦に動かせる程クリアランスが出来て、穴が縦に楕円形になっているのがわかります。
そうなると、ギアは下方向に下がります。
結果としてギア歯と外周方向との壁の間に大きなクリアランスが出来ます。
これがある程度を超えると、回転圧送時にリークが発生して吐出容量が低下してしまうのです。
吐出容量が明らかに低下したポンプ蓋の裏面を見ると、ギア軸が摩耗して下方向に傾いた状態で回転した痕跡が残っている場合が多いです。
その場合こんな感じに上側のみが当たりが強くなります。
その反対側、ボディ側の上側ギアの壁にも、ギア軸が傾いて回っていたと判断出来る擦れた跡が下側にあります。
又、以前に記事にて書きましたが、オイルストレーナーのメッシュを通る程度の鉄粉や硬い異物は、ポンプギアやボディの外周にも傷をつけますので、それによる回転方向の傷も吐出量低下の原因になります。
ちなみに、Z1時代のサービスマニュアルにおいては、ギア歯と外周のボディ側との壁の隙間間隔が0.1mmを超えた場合が使用限界と記載されています。
マニュアルの場合、この隙間にシックネスゲージを入れて測定とあります。
正常時で0.003〜0.036mm 使用限界値0.100mmがデータです。
実際には、幅のあるシックネスゲージをこの場所に挿し込むのはなかなか難しいのです。実際のところこの隙間が0.1mmを超える様にもなると、既に暖機後のアイドリング中には常にオイルランプが点灯し続けるレベルで、一般的には使い物にはなりません。
従ってチェック方法として、上の動画の様にカバーの穴でガタが確認出来る様であれば、既に吐出性能は相当に低下していると判断出来ますので参考にして下さい。
ちなみにこの初期型ポンプは、10W-40のオイルで暖機後に時々オイルランプが点灯していました。
さて、オイルポンプの摩耗は初期型に限らず、Z1からJ系、GPzや最終型のポリスに至る迄、エンジンの運転時間(正確に言えば回転数×運転時間)に比例して発生します。
タイヤやブレーキパット、エンジン内部の部品であればピストンと同様に、走る限りは宿命的に消耗するものですので、それらと同様に認識する必要があります。
又、純正のギア式ポンプの吐出量の少なさが問題にされる場合も少なからずありますが、正常であれば通常の使用範囲で足りないという事はありません。
Z1からGPz1100迄でカタログ上のエンジン出力は約1.5倍となり、純正でオイルクーラーが装備されても能力そのものは同じギアポンプが使われていた事からもわかります。