1月末にアップした、オイルポンプの消耗についての記事を読んでいただきました方から、最近新品のオイルポンプを入手したのだけど記事中に書いてある測定方法でギアとボディ間のクリアランスを測るとクリアランスが正常値を超えているのですがと言う問い合わせがありました。
以前の記事では、ギアとボディの標準クリアランスは0.003〜0.036mm、使用限界値は0.100mmとしています。
測定方法は、下の写真の様にシックネスゲージをシャフトが着いているギアとボディの間に挿し込みます。
ボディやカバー側の軸受け部分が摩耗すると、シャフト部分がポンプ下方向に向かって垂れる様な感じになってこの部分のクリアランスが増える為、サービスマニュアルではここを測定して摩耗度を数値で点検する様にしているわけです。
この部分のクリアランスを測る場合、ヘッドのバルブクリアランスを測定するのに使うタイプの一般的なゲージだと幅が広過ぎる事と0.04mmを下回るものが無い為、この様な先端形状で更に0.02mm迄薄手のものがあるゲージセットを使います。
ちなみに0.04mm以下の薄手のものは先端の変形による消耗が激しい為、何度か測定に使用したら使い捨てる様にしています。
さて、その方が入手されたと言うポンプの場合は、0.05mmのシックネスゲージが入ってしまったという事でした。
確かに、その値だと上記の標準クリアランスを新品にも関わらず上回っている事になります。
ただ、そのポンプは不良品かと言えば実はそうでも無く、1977年頃のKZ1000系以降〜Z1000J系マニュアルでは数値が変わっており、その値は標準クリアランス0.011〜0.083mm 使用限界値0.140mmと二回りほど大きくなっています。
この為、後期型用のデータを参照する限りは特に不良品と言うわけではありません。
この指定クリアランスが大きくされた理由については明確にはされていません。この値が大きくなるとオイル粘度が低下する暖機終了後にはギア外周部からの圧力抜けが発生しますが、メーカー側としてはその程度の圧送力低下でもエンジンの耐久性上は問題無いと数年間の実績上検討して緩くされたのでは無いかと推察しています。
実際に加工した場合、Z1の数値に迄詰めるには当然技術的難易度も高くなり、加工コストが高くつくばかりか不良率も上がる為と言った理由もあったかも知れませんが。
ただ、オイルポンプは消耗するものです、新品時最初の基準値は小さい程圧送のロスも少ないばかりか、使用限界に達する迄の余裕が大きくなりますので長く使える事になります。
従って、当方がオイルポンプのデータとして使う場合は、初期のZ1系のデータをベースに考える様にしています。
実際のところ、ギアとボディのクリアランスが0.100mm程度になったポンプの場合、オイルの粘度にもよりますがアイドリング中にオイルチェックランプが連続して点灯するレベル迄流量低下するものが多くなる為です。
さて、弊社で以前に最終型Z1000Pの未使用オイルポンプを測定した際には以下の様でした。
0.04mmのゲージが若干の抵抗と共に入る程度でしたのでZ1時代の標準値上限の場合ギリギリといったところですが、J系のデータ上では中間値です。
耐久性とポンプとしての性能の理想を言えばギアとボディが回転中に干渉しないレベル迄クリアランスは狭い事が望ましいかとは思います。
ただ、誤解の無い様に申し上げますと、初期のZ1系ポンプに関しては確かに基準値は小さく、新品時には良いものだった様です。
50年近くも前に当時の職人技で仕上げられたり、不良率が高くなっても最初のモデルという事で最高のものを求めた可能性もあります。
それでも未使用な新品であればともかく、長年の使用でボディが摩耗し性能劣化したものが普通ですので、中古品をわざわざ探して迄使う理由は薄いです。
又、 オイルポンプ内部のクリアランスには 上記のギア外周部と、マニュアル上には特に記載は無いのですが、ギアの横面とボディとの間のスラストクリアランスも重要です。
次回は、その部分についても記事にしてみましょう。