バルブスプリングの素材は、オイルテンパー線と呼ばれる専用の鋼線です。
材料自体の見た目は変化が無くとも、実際のところ鋼材の進化は一般に思われているより遥かに進化しています。それが40年以上ともなるとどれ程の違いが出るかです。
ちなみに、Z系最初のZ1~Z1000mk2で使われていたのは、当時の炭素鋼オイルテンパー線
これが第二世代ZのZ1000J系以降にはクロムバナジウム鋼オイルテンパー線となります
そして現代の弊社が用意するESバルブスプリングには最新鋭のシリコンクロム鋼オイルテンパー線の一種が使用されています。
素材が進化するとどうなるか。
まず、鋼材自体の耐久性が上がり、疲労強度が上がります。ちなみに、鋼材メーカーが開示しているオイルテンパー線の資料上では、Z1000J系時代に広く使われていた物に対してですら最新の鋼材は50パーセント以上もの疲労限度向上が謳われています。
さて、一般的にスプリングで同じレートのまま軽くしようとすると、線径を細くして巻きピッチを広げればレートは変わらず軽くなります。
ところが同じ素材のままそれを行った場合、スプリング線の単位長さあたりのねじれ変形量は大きくなりますので、早期に縮んでしまい、適正な反力が保てなくなったり蓄積された(金属) 疲労で破断の可能性も高まります。
従って、バルブスプリングは素材ごとに安全な太さと巻き数が定められており、それに従って設計されています。
しかし、素材が進化して疲労限度が向上したものが使用出来るとなると、同じレートでもより細い素材で巻き数を減らしても耐久性を保ったスプリングが設計出来る様になりますからより軽く出来る事になります。
これも鋼材メーカーの資料からですが、
例えばZ1時代の素材ではφ4.5~5.0mmで製作していたバルブスプリングであれば
Z1000J時代にはφ3.5~4.5mm
2000年以降の素材であればφ2.5~3.5mmの太さで同一スペックのものが製作可能になっています。
例えばこちらはアウタースプリング
Z1~Mk2純正 Z1000J,Z1000R PAMS ES(タイプS)
こちらはインナースプリングです。
Z1~Mk2純正 Z1000J,Z1000R PAMS ES(タイプS)
年式を追って素材が進化するに従って、線径は細く、巻きピッチも広くなっているのが見て取れます。
弊社ESスプリングは、断面が卵型の為、横から見ると更に細く見えます。
ちなみにZ1000J,R以降のバルブスプリングは巻きピッチが狭い部分と広い部分がありますが、サスペンションの様にデュアルレートを狙ったものでは無く、高回転時の反復振動を抑制する事を狙ったものです。
ヘッドに組み込みすると、巻きの密な部分はほぼ密着してしまいますので、事実上はより短くピッチの広い部分のスプリングのみでバルブストロークを受け持っている事になります。
この不等ピッチスプリングは、鋼材の進化で実現出来るようになったわけです。
並べて比較するとよくわかりますが、下はヘッドに組み込んだ際の高さに圧縮した状態です。
Z1~Mk2純正 Z1000J,Z1000R PAMS ES(タイプS)
等ピッチで全体的に圧縮されているZ1系に比較して、J系はまず下側1/3程度が線間密着しています。そして弊社製のものは更に上部の巻き間隔は広がっているのが確認出来ます。
実際に重量比較すると、こうなります。
Z1~Mk2純正 Z1000J,Z1000R PAMS ES(タイプS)
年代を追うに従って軽くなっているのがわかりますでしょうか?
Z1系とESバルブスプリングでは、実に10g近い差があります。
もちろんバルブスプリングは下面がヘッド側に対して位置が変わりませんのでスプリングそのものがカムリフト分をストロークしているわけではありませんが、上部分の大半の重量が高回転でバルブとともに上下している事を考えて下さい。
エンジンチューンにおいてバルブ周りの動弁系の軽量化は非常に効果的です。
これらを軽くすることで、エンジンはよりストレス無く吹け上がる様になり、パワーも向上します。
インナーシム化やリテーナーやバルブのチタン化等の手法は良く聞かれますが、以外にスプリングの変更による軽量化はあまり聞きません。
ただ、インナーシム化は効果はもちろんあるものの整備性の悪化は起こります。バルブクリアランス調整の度にカムシャフト脱着が必要です。
リテーナーやバルブ自体のチタンを含む材質変更は有効ですが、そのものが純正の鋼に比較して非常に高額になったり、耐摩耗性の問題でバルブガイドやバルブシートもチタンに相性の良いものに変更の必要がある等、トータルでのコストは非常に高くなります。
反面、より進化した素材のバルブスプリングの置き換えによる軽量化はリスクが無く、コスト面でも非常に有利なチューニング方法であると理解下さい。
ちなみに、省燃費と効率が重視される様になった昨今の乗用車エンジンのヘッド周りですが、極一部の高性能車を除いてはバルブやリテーナーにはチタン等の素材はあまり使われてはいません。但し、バルブスプリングは最新のオイルテンパー線が使われております為、昔の基準から考えると非常に細くて軽いものになっています。
バルブスプリングを軽量化することで、動弁系をより滑らかな稼働させるわけですが、 弊社ESバルブスプリングもまずそこを狙って作っていますので、フルノーマルエンジンに組み込んだ場合でも効果が出るでしょう。
PS: PAMS ESバルブスプリングは既に量産に入っており、デリバリー開始は6月後半よりとなっています。
対象車種はZ1~GPz1100迄のすべてのZ系
ラインナップは以下の二種類です。
タイプS-Z系やJ系のSTDカムや一般的にST1と呼ばれる市販カムシャフト用
~9.5mmリフト迄を推奨
(Z系純正のアウターシムリテーナーを使用可能,インナーシム化用リテーナーはご相談ください)
タイプR -GPz1100,Z1100RのSTDカム及びリフト量9.4mm~11mmの市販チューニングカムシャフト用
(GPz1100用純正リテーナーを使用したインナーシム化が必要)
インナースプリングとアウタースプリング各8本セット