EFI(electric fuel injection)のハードシステム、スロットルボディやフューエルポンプにECU、それに繋がるいくつものセンサーの取り付けや配線等、ハード部分のセットアップが終了しましたら、ソフト面の作業に入ります。
まずフルコンECUに対してエンジン形式や噴射方法、各種のセンサーの数値を含む初期設定を行います。既に弊社では何台かのZ系のEFI化実績がありますので、それらに使用したデータを基にしていますが、全くデータが無い車両の場合、この初期設定に結構時間がかかりますが、特にクランクピックアップ信号のセッティング数値が正しく無いとエンジンを始動すら出来ません。
このあたりがフルコンを一般化させるには最も敷居が高い部分だとは思うのですが、Z系に関しては弊社でピックアップローターやセンサーマウント等を用意する様にしますので、そのあたりのデータは開示できるようにしようと考えています。
最初のセットアップは一回のみで、毎回確実に始動が出来る様にさえなれば一安心です。
さて、暖機運転後に問題無くエンジンが安定してアイドリングする様になったら走行用の燃調や点火時期のマップを暫定的に作成します。エンジンや車体の仕様の違いを考慮したものをいくつか用意してありますのでこれをベースにします。
ちなみに、下のデータ中に赤く”水温”として表示されている部分がありますが、空冷Z系の場合はこれはシリンダーヘッド部分の温度センサーで拾っている数値です。
弊社セットアップでは始動時から暖機運転中、又、エンジンがヒート気味になった際にもこのデータを使って燃調や点火時期の補正を行っています。
水冷車の場合は文字通りシリンダーヘッド部分からの水温を使うのですが、空冷車の場合シリンダーヘッドの温まり具合に対してオイル温度の上昇が非常に緩慢な為、シリンダーヘッド温度を使っています。
ちなみに最近のカワサキ車ではW800等もヘッド温度センサーベースです。空冷ポルシェ911のEFI化された年式のものもヘッド温度センサーを使っていると聞いています。
さて、走行可能な初期マップを作製するのには空燃費計とシャーシダイナモの使用が有効です。但し、全開時ピークパワーの測定のみを目的としたシンプルなダイナモではその作業は出来ません。
あくまで実際に走る事が目的ですので、まずは常用回転数に対してリターダーと呼ばれる負荷ブレーキを作動させることの出来るものが必要です。
例えば弊社で使用しているダイナモですが、バイク側のギアを固定したまま回転数が上がらない様にブレーキをかけ続けるといった機能があります。
これを使うと、アクセルを微開度から徐々に大きく開けて行っても回転が上がらない=負荷が増えるので、条件に応じた空燃費計の数値になる様に回転数に対する負荷軸一行分の常用域を埋めてしまう事が出来ます。
ちなみに、この機能はインジェクションのセッティングのみならず、キャブレター車でも点火系のマップを製作したり、いくつかのパターンの中から最適なものを選択するのにも使っています。
空燃費計のセンサーは一般市販車に装着されている理想空燃費(14.7)の判断に特化したナローバンドタイプではなく、特にセッティング等用の為により広い範囲(10~18)以上まで測定可能なワイドバンドタイプを使います。
ちなみにこの車両では、空燃費測定ユニットのデータをECUにセンサー入力として接続していますので、別付けで空燃費メーターを装備せずともモニター上で直接表示が可能です。(右下のLambda1が空燃費です)
さて、更に各ギアを使ってダイナモ上で普通に走行してみます、車両スタートから流す程度、そこから緩やかに加速したり高速域迄を何度も繰り返します。
この際、空燃費数値や回転数はもちろん、アクセル開度に点火時期、マニホールド負圧や速度に燃料噴射量にエンジン温度、吸入温度等、全てのデータをロギングしています。
今回使用しているLINK ECUの場合は最もベーシックなモデルでも車載のEUC本体にも走行ログデータを保存する機能があるのが特徴ですが、更に長時間の場合はPCを接続してそちらに保存します。この場合のデータ取得は最大100Hz、数十~100以上のデータを一秒間に100回のサンプリングが可能です。
走行後それらのサンプリングデータを基にマップや各種設定に変更を繰り返します。
既にこの時点で普通に走り出せるマップになっています。
更にダイナモから下ろして実走行しながらの煮詰めに入ります。
いつもの様にトップブリッジに8インチのタブレットPCモニターをマウントしていますが、空燃費や回転数、アクセル開度に点火時期をリアルタイムでの数値で確認したり、走行直後にデータを確認する為です。