クイックシフターとは一般ではオートシフターとも呼ばれますが、別にオートマ車の様に車両が勝手に走行条件に応じてギアチェンジしてくれるわけではありません。
Z系にはあまり縁がありません為、それがどのようなものかご存じない人も多いのですが、一昔前よりスーパースポーツへのオプションシステムもしくはアフターマーケットのカスタマイズパーツとして知られており、ことサーキットにおいてはこれが装備されている事が圧倒的なアドバンテージになります。
システムとしては、主にシフトアップ時にチェンジペダルのシフトアップ操作をセンサーもしくはスイッチで検知し、シフトフォークの動きに応じて100分の数秒程度の点火カットやリタードを行い、 それによってクラッチを切らずともシフトアップが瞬間的に行える様にしたものです。
もちろん、こう言った装備が無くともシフトアップ時に一瞬スロットルを戻せばクラッチ操作せずに上のギアに入れる事は出来ますし、経験者は割と普通にやっています。
ただ、スロットルを大きく開けた高回転域でそれを行うのは熟練者も困難です。しかしクイックシフターが装備されていると、点火システムを制御する事でスロットルを開けたままシフトアップが出来るようになりますのと、そもそもクラッチを切る事でエンジンとホイール間の動力をカットする 必要がありませんので、その分確実なタイム短縮が出来ますから昨今のレースでは必須なアイテムになっています。
実際にどの程度かと言えば、データロガーで確認するとサーキット走行中のレーサーがシフトアップする際にクイックシフターが無い場合にスロットルを一瞬戻しながらクラッチを切りシフト操作を行って再度全開に戻す迄に、個人差はあっても0.2~0.3秒かかっています。
この間にクラッチ操作を行ってその間駆動力は途切れているわけです。
これがクイックシフター装備車の場合、凡そですがシフトアップの為の点火操作の時間は0.05秒以下で済んでしまいますのでその差分が生じます。
例えば、筑波サーキットで空冷Z系の5速ミッションの場合、周回の都度7~8回シフトアップを行うのですが、どれだけの差が生じるかと言う事になります。
周回数の多いレースであったりすれば尚更です。
更に最近の車両では、電子スロットル化されたインジェクションにより、シフトダウン時にも自動的にブリッピングを行いながらやはりクラッチ操作も無用なレベル迄進化しています。(写真はkawasaki広報のZX-6Rのもの)
スリッパークラッチが装備されていれば、ブレーキングからシフトダウン迄の間、スロットルもクラッチも操作せずに済みますので、ライダーは減速の際のブレーキと加速の為のクラッチにのみ集中出来る事になります。
オートバイの操作を楽しむという事とは別次元の話ですが、タイムを短縮すると言うサーキットでの絶対価値を目的にした場合の進化と言えます。
さて、クイックシフターシステム自体はアフターマーケット品として点火をカットするのみの様なものも販売していますので、そういったものを使用してセッティングすればキャブレター車でも使用は可能です。
ただ、最近のフルコンはモータースポーツ用として進化していますので、センサーやスイッチを繋げるのみで点火カットのみでなく、より様々な要素を取り入れて細やかにセッティング出来る様になっています。
弊社のZ1000Jはレーサーではなく、あくまで実験車両としてのノーマルですが、先日その機能を試してみました。
ステップ廻りがあえてのノーマルの為、チェンジレバーが短い都合で市販品のクイックシフター用スイッチを組み付けています。
これの場合プッシュ式で、シフトアップ操作を行うと内部のスイッチが接続される構造です。
最初は最近のスーパースポーツ用純正部品を流用しようとしたのですが、いずれも長くてこのスペースに収まりませんでした。
これを使って、シフトアップ時にアースに落とす事でデジタル信号0への立ち下がりエッジをトリガとして点火コントロールが行われる様、フルコン側の設定を行います。
実際にクイックシフターを操作するとこんな感じです。
ちなみにダイナモではリターダー設定を使って負荷をかけていますので、より実際の走行状態に近い吹け上がりを再現出来ます。
時速40km以下では使用しない想定の為、ローギアの発進と2速に入れる瞬間のみクラッチを使っていますが、9000rpm前をシフトポイントとして、3速、4速、トップギア迄シフトアップする間クラッチは使わず、その間アクセルは固定して全く戻していません。
クラッチを使った2速へのアップより、使わないそれ以上のギアへのアップの方がむしろシフトショックが小さくなっています。
又、 少々ストロークが大きい 純正のシフトレバー廻りの為、シフトペダル操作を初めて点火制御が入る迄の遅延や復帰時間はそれに合わせてフルコン上で調整しています。
手元で見た場合はこんな感じです。
2速ホールドから全開、そのまま3速、4速、トップでの最高速迄
ちなみに左手は撮影用のスマートフォンを持っていますので当然シフトアップ時にクラッチは使っていません。
この動画では、スロットルは加速中一切戻していないのがはっきりわかります。
さて、実験に使っているZ1000Jはインジェクション車ですが、実はクイックシフターの為の燃料系の制御はあえて行ってはいません。(更にセッティングを煮詰めるのに瞬間的な燃料補正を行ってやる事も可能です)
これはこの機能が先日紹介した様にキャブレターのまま点火系の制御のみにフルコンを導入した車両においても、シフトセンサーの追加と設定のみで使う事が出来る事を意味します。
更にセッティングを行うのに、速度センサーを装備してやると回転数との対比で使用中のギアポジションもフルコンECUは判別出来るようになりますので、くいくシフター操作時の点火制御時間、復帰時間、点火カット率、リタード度数等、これらをギア毎に細やかに調整する事が可能になります。
速度センサー導入によるギアポジション判定とロギングについては以前に記事にしています。
これは先日点火用フルコン導入したZ1に装着した速度センサー。
ケーブルとメーターの間に入れてパルスを出せる汎用品で、簡単に装着出来ます。もちろんドライブスプロケットに装着するセンサータイプでも回転に応じてパルスを発生出来るものであればほぼ何でも使用可能です。
こう言ったクイックシフター対応やデータロガーによるセッティング支援等は現行のフルコンには極一部の機能ですが、周知されればインジェクション車に限らずサーキットユースされるキャブレター仕様のレーサーにも今後は普及が進むかも知れませんね。
もちろんレーサーやインジェクション車に限らず、フルコン化はもっと身近になる様な気がします。