初夏から真夏にかけてセットアップしたインジェクション車。
いよいよ12月を迎えるにあたって平均気温も下がりましたので、一度入庫いただいてマップの微調整を行いました。
一般のイメージでは、インジェクション車と言えばキャブに比べて春夏秋冬どこに行っても一発始動で常に安定した状態になるといったものだと思いますが、それはあくまでセットアップが終わった状態での事。
気温や気圧の変化に対してどの様に補正をかけるかを教えるのは人間で、逆に教えてない事は一切仕事しないのがコンピューターです。
もちろんある程度の予想とデータに基づいて補正をかける様、最初に設定はしていますが、やはり外気温が30度近くも変化して空気密度が変化した状態に合わせるのであれば、その季節と個体に合わせて調整してやるのがベストです。
今回は既にほぼ完成しているメインのマップは殆ど変更はせず、上記の補正値のみをメインに設定しています。
始動暖機や走行中のシリンダーヘッド温度、吸気温度に合わせる作業がメインです。
これらの作業を季節ごとに行う事で、より完成度が高くなります。
ちなみにこの車両の場合、冷間時の始動から暖機終了迄、又走行中のシリンダーヘッド温度に合わせてメインマップに対しての補正を行っています。
この為始動後から暖まるまでの間は気持ちアイドリングが高くなる様に、更に完全に暖機が終わってからは逆に必要以上に上がらずに自然に安定する様に燃料や点火時期をコントロールしています。
この為、実用上アイドルスクリューを使って調整する必要は無くなっています。
さて、話は変わりますが下の図はこの時期に弊社近くの幹線道路を20分程流してみた際のものです。
回転数を表わす黄緑とスロットル開度を表わす青い線がフラットになっているところは信号待ちで停車している事を表しますが、街中を流しているとほぼ半分以上とも言える時間がアイドリングになっていると言えなくもありません。
又、1,000ccクラスのバイクともなると、一般ストリートでのスロットル開度は極々僅かな場合が多く、3パーセントから5パーセントの微開度時間がその殆どを占める事もあります。
ちなみに、これは単位時間ごとのスロットル開度やエンジン負荷を可視化出来る様にグラフにしたものです。
一般公道を流して走っている限り、ビッグバイクでのスロットルはさほど開いていない事がわかります。
プロットの殆どが開度10パーセント以下で、ちなみにオレンジのゾーンは発進加速で一瞬負荷が増えた際のものが殆どで、ある程度速度が乗ってからの走行中は水色の部分以下が占めます。
そうなるとこの領域の発進や極低速で走行した際のセットアップが非常に重用になって来るのがレーサーとは異なるストリート車両の特徴となります。
レーシングマシンはゆっくりクラッチを繋いで穏やかに発進と言う事はありません、中断やピットインが無ければそれこそローギアからの発進は一回きりです。それこそ2速半クラッチでゆるゆる進むという事もありませんから、その領域を煮詰めようとすればその分手間がかかるのは、キャブでもインジェクションでも同じです。
又、データ上、冬独特な状況が読み取れるのがシリンダーヘッド温度です。
オレンジで表されているラインがそれですが、(LINKのソフトウェアの仕様上”水温”となっています)走行中に冷たい風がヘッドに当たる事で暖機が終わっても一定温度までは必ず下がっている事がわかります。
これが信号待ちで停車するとじわりと温度は上昇し、再度スタートして風があたると下がっての繰り返しです。
ちなみにこういった温度の上下は空冷独特のものとも言え、シリンダーヘッド温度がそのまま燃焼室内の燃焼状態を表しますので、この温度の上下に対しても燃調点火時期共に変化に合わせて補正が入る様にしています。