それまで何事も無く調子の良かったエンジンが、何の前兆もなく始動すら出来なくなってしまったという不思議な現象。
燃料系や点火系のトラブルでは考え得る事ではありますが、それらが正常であるにも関わらず、エンジン本体が何の前触れもなくある日突然始動不能というのは中々無い事です。
バッテリーその他に問題が無いのにスターターで始動を試みるもクランキングが出来ない。試にキックペダルで始動を試みても、今度はペダルを踏み降ろす事すら出来ない。
そうです。エンジンが何らかの原因によりロックしてしまいました。
プラグの状態からシリンダー内の腐食を疑い原因究明の為ヘッドを下します。
一番シリンダーが最も酷い状態ですが、画像で見える液体はオイルでもガソリンでもなく、固着を少しでも和らげる為に挿した油分です。
画像では見えませんが、ピストンリングとシリンダー内壁が腐食により完全に固着しています。シリンダーブロックを引く抜くのにも一苦労です。
やっとの事で姿を現したピストン。リングはご覧の通りの状態です。
取り外したピストンです。ピストンピンが腐食しているわけではないので、コンロッドからの取り外し自体は問題ありません。幸い水の侵入はここまでで、腰下は無事で一部ヘッドのシートリングやバルブの当たり面に腐食が見られましたが、軽度だったため摺合せで対処。
さて、結局こうなった原因は何だったのか?ですが、原因はオーナーさんが洗車時に使用した高圧洗浄機による物だと断定。エアクリーナー付仕様であれば良かったのですが、ファンネル仕様であった為に直接高圧の水がファンネルからポートを伝いシリンダー内に流れ込んでしまったと推察。
それに直ぐ気づきプラグホールから水気を吸い出したり油分を挿し腐食を食い止めるといった応急処理を施した後に、間を開けずにエンジンを始動していれば免れた事だったと思うのですが、そのまま水の侵入に気づかず数か月放置してしまった結果のトラブルです。
高圧洗浄機等を用いて洗車する場合、特にファンネル仕様はファンネルキャップ等を用いて水の浸入を防いだ状態で洗車されます様お願い致します。