Z1~Z1000Mk2迄のクラッチハウジングは、重いですが頑丈な鉄製である事をクラッチ周辺を整備した経験者であればご存じであるとは思いますが、同じ鉄でも製法が異なる物があることは意外と知られていません。
左のものと右のものの違いが判るでしょうか?左のは滅多に見ない鋳造からの加工製作で、右のものはプレス成型です。
内部の断面部分比較、鋳造のものは断面に一部鋳肌が残っています。
内面と外周部の加工痕からは鋳造品を切削によって目標の厚さにしたのがわかります。
フリクションプレートの外周部が嵌まり込む溝部分も切削による機械加工で仕上げられています。大まかな鋳造品から削る時間を考えるとかなり手が込んだものですね。
こちらは殆ど多くの車両で見られるプレス成型ベースのハウジング。
肉厚な圧延鋼板を加工するにはかなり丈夫な金型が必要にはなりますが、量産性は高いです。プレスカットで大まかな形にしながらお椀型にした後に、内外周のバリの様になった部分を切削してあるのがわかります。
ダンパースプリングが入る四角い穴も、打ち抜きで成型されたのが見てとれます。
又、プレスで曲げられる鉄板ですので、成型後に摩耗に対する硬度を上げる為熱処理を施されている感じですね。
さて、鉄だからといって必ずしも重くてデメリットと言えばそうでもありません。
現在のものはその殆どの車両がアルミですが、鉄製の場合はフリクションプレート当たり部の段付き摩耗はほぼ発生しませんし、素材強度がアルミに比較して3倍とされますので、フリクションプレートの当たる厚さの必要ない部分に関しては薄くしたり肉抜き穴を作る事で高強度かつ軽量に仕上げる事も出来ます。
例えば、80年代~90年代のスズキの油冷エンジンでは薄い鉄製のハウジングを使ったものがあったと記憶していますし、ある人に聞いた話では数年前に販売された、モトGPマシンの公道用仕様とも言える市販車,HONDA RC213V-Sでは美しく肉抜きされた鉄製であったとの事でした。
余談ですがそのRC213V-Sのハウジングデザインをパーツリストで見て、これは是非とも現物見てみたいと思いましたが、中古で出ているものではまずありません。個人的に非常に興味があったので、新品で部品だけ買ってみようと思ったのですが、正規ルートでは213V-Sのオーナー確認が取れないと販売してくれないとの事。ちなみにUSAあたりのサイトにはお値段も載っていたりしますが、流石に全ての部品が手作り製作の様な車両のパーツです。1番のハウジングの価格は約$4,400(本日のレートで46万円)だそうで、ちょっと見てみたいからと買える値段ではありませんでした。
しかし、 鉄であってもアルミであっても さぞかしなものなのでしょう。機会があれば是非とも拝見してみたいものですね。