持ち込み整備車両で以前にカムホルダーのねじ山16か所全てにヘリサート加工が施されていたシリンダーヘッド。
トルクチェックを行った際に、エキゾースト側の内1か所のヘリサートコイルが引き抜けてきました。
その部分はオーバーサイズスリーブをねじ入れた上で新規にねじ山を製作と再生を行うとして、抜いてみたコイルは通常我々が使用する3スケアのものより明らかに短いものであった為、全箇所の点検の為に抜いたところです。
抜いたコイル。
2スケアと呼ばれる長さのものです。
ねじ山の修理や事前の強化補強として使用されるヘリサートコイルですが、カムホルダー部に使う場合、2スケアだと正直オリジナルのねじ長さとぎりぎり同等か、もしくは僅かに短くなります。
母材側のねじ山径が1サイズ大きくなる為、若干の強度アップは図れるものの、経験上ある程度使用するとやはりコイルが周囲の母材ごと引き抜けて壊れてしまう可能性が非常に高いです。
例えばエンジンのカバーやその他の場所であれば2スケアでも充分な強度はあるのですが、熱膨張を繰り返しながらバルブスプリングをカムが押し込む反力を受け続けるねじ山としては負荷が大きいのでしょう。
3スケアコイルとの比較。
この長さのものを使用してやる事で、母材側との接触面積を大きくして負荷を分散し、同時にカムホルダーを固定するボルトも5mm長い50mmのものを使用する事で耐久性を確保します。
今回、引き抜けてしまったのは一か所ですが、それ以外の場所もいずれ痛んで抜ける可能性が高いと判断し、予防措置として全数のコイルをこの3スケアのものに変更します。
タップでねじ山を修正すると同時に、コイルが長くなる分下穴の底迄ヘリサートが入れられる様仕上げタップで切り足しを行います。
全コイルを交換した後、50mmの専用ボルトを入れて、フランジ部分がカムホルダーの座面より低くなっている事でねじ山深さとヘリサートコイルとのかみ合い幅を確認しています。
ちなみに昔は最も強度の高い12.9の市販クロモリボルトを使用する事が多かったのですが、使用年数の長いシリンダーヘッド程、温度が高くなるエキゾースト側の母材の疲労によるねじ山破損が大きい事例を考えた時、カムホルダーやシリンダーヘッド側の熱膨張によりボルトが余計に引っ張られると、強度の高い方がねじ山への負担が大きくなる可能性もあります。
その為、弊社では7年程前より10.9強度とした専用ボルトを使用しています。
この強度のボルトでも通常使用で緩む事はありませんし、アルミ側の熱膨張で過大な力が母材側のねじ山にかからずボルト側が伸びて吸収してくれる事を期待してのものです。