弊社ではメタルタイプのシリンダーヘッドガスケットを販売していますが、特にその中でも初期のZ1系用で、カムチェーントンネル部にセンターシールを使わない シリンダーブロックに対応する、4気筒分が一体になっているタイプがあります。
ちなみに海外から輸入されたビッグブロックと呼ばれるタイプの主にドラッグレース用に使われるタイプのものにもセンターシールがありません為、時々それ用として大きなボアのものも問い合わせや特注をいただく事があります。
さて、この一体式ガスケットですが、先日ユーザーの方からブロック左右両端のヘッド位置決めドエルピンの通る穴が純正品やリプロダクションのガスケットに比べて少し大きいが、ガスケット位置決めの精度の為には良くないのでは無いでしょうかとご指摘を受けました。
これが左右に開いているその穴です。
外径10mmの純正ドエルピンを入れてみたところ、そこそこクリアランスがある事がわかります。
ただ、この穴側が大きいのは実は意識してそうなっています。
元々このドエルピンの距離は左右の中心間隔で410mmとなっていますが、これが長年の使用や加工精度の公差で±コンマ台でのばらつきがある事と、更に重要な理由としては、シリンダーヘッドやブロックの膨張に対応する為です。
ヘッドやブロックはアルミで出来ていますが、例えば弊社で販売しているメタルヘッドガスケットは3層構造の外側2枚がスプリング特性を持つステンレスで、コア部分はスチールです。
シリンダーヘッドやブロックの素材に使われているアルミに対してステンレスやスチールは膨張整数が小さい上、特にコアのスチール層は非常に丈夫な為に、もしもドエルピン位置の穴をぴったりに作ってしまうとエンジン運転中に膨張しようとするシリンダーヘッドとブロックをガスケットがピンの位置で内側に引っ張る為、ブロックから上に無用なストレスをかけてしまう事になってしまいます。
単純に線膨張係数をベースに計算してみた場合、20℃の常温でピン間隔410.0mmとすると、150℃ではヘッド側は1.274mm伸びますが、ガスケット側は0.874mmと、0.4mmの差が出来ます。
これが仮に180℃になったとすると、ヘッド側は1.568mmに対してガスケット側は1.075mmと、実に0.495mmとなります。
シリンダーヘッドナットで圧力をかけてあるとは言え、0.4~0.5mm分のテンションで膨張しようとするヘッドやブロックに負荷をかける可能性がある設計は少なくともよろしくありません。
この為、弊社の一体型ヘッドガスケットは、発売当初より左右のドエルピン用穴を少し大き目にして膨張の寸法差に対処出来る様にしてあります。
(実際のヘッドやブロックの膨張は温度分布のばらつきや形状、シリンダーブロックは鋳鉄スリーブが入っていたりしますので微妙に変わりますが、それを見越しての穴のサイズにしています。)
又、純正やそれに近い社外品のグラファイトベースでボア位置にメタルリングがかしめてあるタイプのヘッドガスケットのドエル穴はピッタリの物が多いのですが、あれはコアに入っているメタルシートが一体では無いパンチング構造になっていて横剛性が低い為にエンジンの膨張に応じて伸びるからです。
更に上の写真でのヘッドガスケットですが、純正の一体型ヘッドガスケットに対してセンターのカムチェーントンネル用の開口部が大きく、特に前後方向が細くなっています。
これは、ヒート時等に大きくヘッドやブロックが不均一な膨張をした際にもその部分でヘッドガスケットが左右に伸びる事が出来る様、あえてガスケットセンター部前後の剛性を落とせないかと考えた為です。
ちなみに、お客様から相談のありました、ヘッドガスケット位置決めの際のボア位置精度についてですが、実は弊社のヘッドガスケットは必ず表記より0.5mm程度実寸が大きくなる様にしています。
例えば67mm表記であれば、ボア内径の実寸は67.5mmとなる様にです。
元々シリンダーブロックに開いているボア位置も、コンマmm単位で位置公差がある事を見越してあるのですが、ドエルピンの穴が大きいことによるずれにも対応出来るようになっています。