かなり以前のブログでも記事にした事があるのですが、ゼファー1100とZ系を比較するとゼファーのエンジンブロック部分は非常に大型なイメージがあります。
ところが実はシリンダーピッチは同じです。
違いはシリンダースタッド位置と、前後方向への張り出しです。
基本的にピストンボアの大きなゼファー1100は、シリンダースタッドの位置が各ボアのセンターより離されて、ブロック肉厚に余裕が持たせる位置に変更されています。
ちなみに、ヘッドガスケットの違いとしてはゼファー1100は右から左迄が一体の1ピース。カムチェーントンネル横のスタッド位置はより中心に近い位置になっています。
これに対して、Z系は最初期の車両を除き、センターのカムチェーントンネル部周囲にゴムシールを使う分割2ピースタイプです。
Z1系初期型では1ピースであったガスケットが分割タイプになった理由としては諸説あるのですが、主な理由としてはセンター部分からのオイル漏れが頻発した為と言われています。
この原因として考えてみるに、まず一番上のゼファー1100の写真を見ていただくとわかる通り、1ピースタイプのままカムチェーントンネル部前後の面圧とシールを適性に行おうとする場合、トンネル部分の前後方向にもシリンダーヘッドとブロックを締結する為のボルトがあります。
Z系以降に設計されてデビューしたザッパー系からゼファー750に至る迄の車両もその構造で、カワサキに限らずスズキのGS,GSXは特に熱的負担の大きなエキゾースト(エンジン前方) に1本止ボルトがあり、ホンダのCB-Kは前後の2本、CB-F系は前側に2本と、この様に1ピースタイプにする場合にはセンター部分を抑える(少なくともエキゾースト側もしくは張り出している部分については)必要があったのではないかと思います。
この為、最初期のみ1ピースであったZ系も、それ以降の車両と同様に前後に止ボルトを追加すれば1ピースのまま行けたのではないかとも思えますが、そうした場合当然シリンダーヘッドとブロック側の両方の鋳物を変更する必要があります。
更に完璧を期すのであれば、トンネル部横の4本のスタッドボルト位置をゼファー1100の様にもっと内側にしてやればベストかとも思えます。
中心部分の面圧分散は更に良好なものになるでしょう。
但し、その場合はシリンダーヘッド、ブロック、クランクケース迄全ての変更となり、初期のエンジンパーツとの互換性は全く無いものになってしまいます。
この為、センター部の面圧が多少低くても確実にオイルのリークを止め易いゴムシール方式にして2ピースへの分割を導入したのでは無いかと想像しています。
この方法であれば、少なくとも変更点はブロック側の上面のみで済みますので、例えば、最初期型の修理や整備に、後期型のシリンダーブロックを用いる様な整備も可能です。
さて、Z系からJ系に進化した際にはカムチェーンのアイドラーギアが廃されてスリッパースライダー化された事もあり、カムチェーントンネルはより細くする事が出来る様になりました。
この際むしろゼファー1100や750の様に前後に止ボルトを追加して1ピースガスケットに戻す機会があったのでは無いかとも考えられますが、パワーも上がり発熱量も増大した空冷J系のエンジンの熱分布と膨張に対応するには、むしろ2ピースにシール構造の方がオイル漏れに関しては実績のある方が有利であろうとその時には判断されてそのままの構造とされたのかも知れません。
又、シリンダーブロック側のスタッド穴はJ系ではブロック肉厚の確保の為に前後方向に移動はしましたものの、スタッド位置そのものは最終のGPz1100迄変更はされませんでした。
エンジンのクランクケースやシリンダーヘッドの加工機や治具をそのまま使えるという事情も可能性としてはあるでしょう。
ともあれ結果として、1973年型Z系から2005年のJ系エンジンZ1000Pの最終型に至る迄、ヘッドガスケットは左右に分割された2ピースにセンター部は専用シールという構造になっています。
この為、弊社はZ系においては以降のエンジンの様にトンネル部前後の止めボルトが無い事とトンネル横のスタッドボルト位置が離れている事実を鑑みて、一般的なボアのエンジンに関しては純正同様に左右分割した2ピースにセンターシールを使うというものをメインとしています。
ただ、現実問題として、74mmのボアを超えたあたりから、センターシール部分に沿う位置のガスケットがどうしても細くなり、ガスケットの熱分布面で効率が低下する場合もあるかと思えますので、そのサイズを超えるボアのハイチューンエンジン用のみでも1ピース化出来ないかと思うのですが、トンネル部前後にボルトの無い面圧の足りない部分をどうするか、センターシール並みの耐リーク特性をレース仕様であればともかく、走行条件が多岐に渡り数限りなく膨張と収縮を繰り返すストリート使用でも同様の長期間維持できるかが課題となります。
ちなみに分割式タイプでもシリンダーライナーが沈んでいた様な原因を除き、 ガスケットのシール性及び耐久性を含む強度面では問題ない事を確認しています。
一例ですが、過去には78mmボアハイコンプに2ピースのガスケット使用で、筑波サーキットのレースを予選から決勝迄、クラス優勝するレベルの走行でも抜ける様な事はありませんでした。