シリンダーフィン底部の形状や、位置によってのブロック断面やその厚さを確認する為にカットしてみたZのシリンダーブロックです。
製造年式やロット、個体にもよるかとは思いたいのですが、鋳造時に生じる鋳巣と呼ばれる泡が驚く程に内包されているのがわかります。
さて、シリンダーブロック内部に入っているスリーブですが、構造的にはシリンダーヘッドに押さえられてはいるものの下側で支えられてはいませんから、ブロックを縦に支える様にはなっていません。
例えばシリンダースリーブを交換して、より大きなボアに拡大したエンジンを製作しようとした場合、当然その分のアルミブロックの壁厚さも薄くなりますし、上の様に鋳巣の多い部分があれば更に強度は落ちますから、拡大にも限度があります。
又、圧縮を上げたエンジンでのガスケットの吹き抜けを防止する意図で、太くて強度が高く伸び難いシリンダースタッドを使用して、過大な締め付けを行った場合、薄いシリンダーブロックはアルミの空き缶を上から踏み潰す様に変形してしまう可能性も大きくなります。
当然その様になったシリンダーブロックは、製作時にどんなに気を使ってクリアランス設定しても緩くなってしまいます。
実際のところ、年数の経った空冷エンジンのシリンダーブロックに圧入されているシリンダースリーブのはめ込みが緩くなってしまうのは、熱膨張によりシリンダーブロックの縦方向への収縮が繰り返されるのに、高さ位置を固定されたシリンダーヘッドによって横方向に広がる力に転嫁される為と考えられます。
この歪みはほんの僅かであっても、それが数千回も繰り返されれば当然影響は出ますし、スリーブが別部品で内部に浮いている構造が変わらない限り、それ自体の材質を変更しても根本解決は出来ない可能性が高いです。
それでも過熱冷却はエンジンの運転時間や、始動停止による温度変化の回数で決まりますので、新品もしくは適切な寸法で製作し直したシリンダーブロックのスリーブの緩みが問題になる迄使うには、経験上それなりに使っている車両でも20年からの時間がかかっていますし、使用頻度の少ない車両の場合は更に寿命は延びるかも知れません。
従って、空冷エンジンのスリーブの緩みは構造的な原因によりますが、適切に整備する事でそれなりに長くは使えると言えます。
ちなみに現行車のシリンダーブロックの多くが、シリンダースリーブにあたる部分を一体に鋳造してやるのは、ブロック全体の熱膨張時や締め付けによる力がかかった際の剛性を高める為もあるのでしょう。その分エンジンはビッグボアにしたり、排気量が変わらなければシリンダー部分は小型化出来ます。
当然アルミのみではピストンリングによる摩擦に市販車レベルでの耐久性が確保出来ない為、シリンダー内部には硬質メッキやその他の処理が施されています。
但し、最新型の超高性能エンジンでは、ブロック剛性と耐摩耗性のバランスの為に内壁に鉄系素材の溶射が施されており、50万km基準の耐久性があるとされていますので、メッキのみが優位と言うわけでも無い様です。
内燃機関の基本的な構造そのものは同じでも、それを支える技術は進化し続けているのですね。