これは、Z1000Rの純正ジェネレーターステーターコイルです。
以前にエンジンオーバーホールをさせていただいた車両から取り外したものです。
その際には点検しておりもちろん異常はありませんでしたが、それから数年が経ち、ある時からバッテリーが上がり気味になり、そのうち完全に充電しなくなった為にカバーを取り外して点検したところ、この様に焼け焦げてしまっていたとの事です。
真っ黒に焼け焦げたコイルは一般ユーザー様からするとかなりショッキングな絵面ですが、実はアウターローター方式になって以降のZ1000mk2,FX1,J系においてはさほど珍しいものではありません。
又、意外に知られてない気もしますが、オートバイのステーターコイルは基本的に消耗部品な為、こういった焼損はZ系やJ系に限らず現代の車両でも割と起こります。
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ちなみに乗用車に比べて、オートバイの場合はシステムのサイズとしての制約がある為に電力を発生する為のジェネレーターがエンジン本体に組み込まれている場合が多いのですが、その構造上ステーターコイルのトラブルは発生し易くなります。
これは同様に電力を発生する乗用車用のオルタネーターですが、オートバイのジェネレーターに比較してコイル部の寿命は長い分、起電力を発生する為の構造の違いにより現行の車両でもオートバイ用のジェネレーターより大きく、又、エンジン本体より離されています。
オルタネーターには発電時の冷却の為に筐体に多くの穴が開けられており、内部が回転する事で空気を通す構造になっています(昔のタイプではプーリー下に送風用のフィンを備えるものもありました)。
さて、このZ1000Rのコイルですが、配線やグロメット部分を見る限り新車当時のままでは無さそうで、少なからず1度は交換されている様な感じですが、それでも何万kmか走った時点でこの様に焼けてしまった様です。
実際のところ、こういった電気系の寿命については視覚的に判り難いところもあります。外から見えないステーターコイルの場合、例えばタイヤ残り溝の深さの様に目安にする事が出来ません。
こういった見えない部分の消耗部品となると、大体どれくらいで寿命が来るのかを目安にして交換とする場合もあるのですが、これが使用環境によって大きく差があり、具体的に距離や年数では予想が出来ません。
当方の経験上では、Z1000J系で一番早かったものは20,000km台で、逆に50,000km超でもまだ使えているものがあります。
ちなみにこの様に焼けてしまうのは、コイルを構成する巻き線表面の絶縁被膜が発電時や充電制御時に発熱して消耗します、やがて構成している鉄心にショート状態となりますが、その状態でエンジン運転を続けると発生した電流が直接鉄心からアースに流れて更に大きな熱が発生する為です。
例えば、暑い季節の連続走行が多かったり、チューニングエンジン等でオイル温度が高めの状態であったりすると特に寿命は短くなる傾向にありますし、Z系を含む空冷車の場合、エンジンの放熱をラジエターに依存する事が出来ない為、熱条件的には厳しい場合があります。
又、キャブレター車の場合はブローバイガスに混じる未燃焼ガスの中に含まれるガソリンの割合が多く、リング間から吹き抜けしてケース内に入る燃焼ガス等によって生じるスラッジと同様にエンジンオイルに混入し易くなります。
これらはステーターコイルの絶縁被膜には非常に悪影響を及ぼしますので、エンジンオイルが黒く汚れ気味になっている状態は要注意でしょう。
ただ、上記の事に注意の上車両を使いながら距離の大小や時間の差はあっても、距離を重ねればいずれ必ず使えなくなるのは間違いの無い消耗部品である事に間違いはありません。
これは当時の純正のみならず現行車に至る迄同じです。
例としてですが、以下の写真はオドメーターで約36,000kmのZX-12Rのステーターコイルです。
2000年式の初期型なのでさほど新しい車両ではありませんが、実は私の所有車両の中の1台だったりします。
たまに乗りますが、今のところジェネレーターやレギュレーターを含んでフルノーマルの充電系に不調等はありませんし、点検しても数値的な問題はありません。
ただ、オイルリークのメンテナンスの為に開けてみたところ、コイルの何か所かに絶縁焼け始めの兆候が見受けられます。これも遠からず交換メンテナンスの必要や、部品の確保の必要があるかと考えられます。
写真を拡大すると、巻き線やそれをモールドしている樹脂に、ぽつぽつと炭化の始まっているところがある事がわかります。
絶縁が消耗した初期に交換等の処置が出来れば、上のZ1000Rのレベルまで焼けたり、完全に充電出来なくなりバイクが走行不能状態になる前に対応出来ますので、次回はその点検方法等についても記事にしましょう。