先日記事にした、GPz1100のオイルポンプに装備されたリリーフバルブとは異なり、Z系には初期のZ1からオイルフィルター室上部にあるオイルバイパスバルブがあります。
このオイルバイパスバルブの役目についてです。
極端に長い期間オイルフィルターを交換しなかったり、何らかの原因で大量のスラッジや異物等でフィルターの濾紙部分が目詰まりしてオイルが通過出来なくなった場合、そのままではエンジン各部にオイルが供給されずに致命的な破損を招いてしまう為、緊急的にこのバイパスバルブを開いてフィルターを通さずにエンジン各部にオイルを流すのが本来の役目です。
実際フィルターを通さないオイルを流すのは、エンジンの寿命に関わるレベルで非常にまずいですが、オイルが回らなければ即時エンジン破損に繋がりますから、それよりは良いと言う事ですね。
原理としては、オイルフィルターをオイルが通過出来なくなると、フィルター室の内圧が上昇し、フィルター以降のオイルラインと圧力差が生じます。
これが一定以上の値を超えると、スプリングに押されていたボールが上方に押し上げられてバルブが開きます。
このバイパスバルブ、J系ではクランクケースの上部では無く、オイルフィルターパンを固定する中空ボルトの中に装備されています。
ただ、このバイパスされる際の圧力ですが、Z1系から以降の各年式の空冷Z系サービスマニュアルを見る限りデータの記載がありません。
それでは一体どれくらいで開くのかと、知りたければ測ってみるのが一番です。
オイルフィルターが詰まったと仮定して、フィルターボルトのオイル通路を塞ぎ、フィルターパンにニップルを装着してそこからエアを少しずつ流します。
エアがオイルポンプ側の通路に抜けない様、その穴も塞ぎます。
これでフィルター室は密閉されます。
こういったオイルバイパスバルブの作動圧は、200kpa(2.04㎏f/㎠)程度が多いです。手元に丁度良いスケールでエアホースを繋げられる圧力計として、4輪用ターボ車用のブーストメーターがありましたので、簡易測定用として使ってみました。
ゆっくりエアを流し込み、フィルター室の内圧を上げていきます。
バルブが開き始めた時点でブーストメーターの上昇が止まり、エアが抜けていく音が聞こえる様になります。
動画で確認出来る限り、110kpa(1.12kgf/㎠)になった時と測定できました。
オイルフィルターの前後でこれだけの圧力差が生じた場合、バルブが開くと言う事になります。
オイルポンプの吐出圧力でこの値になった時に開くわけではありませんが、それにしてもパイパス圧としては意外に低い気がします。
何故ここまで低いのか想像してみます。
Z1系がデビューした際には整備環境が悪い状態でダスト等がエンジン内部に入っても容易に破損しない事と言う目標があったらしいです。
クランクシャフトの潤滑をニードルベアリングにしたのもその為であったと聞いています。
それでも異物はフィルターで極力捉えてオイルラインに流さない様にしたかったのか、フィルターは内部の濾紙部分の背が高く大型になっています。
ただ、濾紙部の剛性は落ちますので、フィルターの外と中で大きな圧力差が生じるとフィルター部が内側に向かって潰れてしまいます。
バイパス圧設定が低くされたのはこの辺りの理由もあったのかも知れません。
もちろんバイパス圧が低くとも、エンジンオイルが適温であれば柔らかくなったエンジンオイルはフィルターをスムーズに抜けますので、動画の様に110kpaを超える様な圧力差がフィルターの前後に生じる事はありませんから、暖機後のエンジンでバイパスバルブが開いている様な事は無いでしょう。
問題はエンジンオイルが冷え切った状態での始動時とその直後です。
気温が低く、固くなった状態のオイルはスムーズにフィルターを通過し難くなります。
冷間時粘度の高いオイルや、シングルグレードのオイルを使っていたりすると尚更です。
その状態でエンジン回転数を上げてやると、フィルター前での油圧は急激に上昇し、フィルター後での圧力差がバイパスが開く110kpaを超えてしまう可能性が高くなります。
その場合、エンジンオイルはオイルフィルターを通さずに供給されてしまう事になります。
その状況は決してエンジンに良いことではありません。
対策として、やはり始動後暖機は丁寧に行い、エンジンオイル温度が適温になる位迄の間は急激なアクセルワークや高回転の使用を避ける事と、季節に応じた冷間時粘度のオイルを使用するのも良いかと思います。
又、エンジンオイルの温度上昇は空冷エンジンでもシリンダーヘッドの温度に対して非常に緩慢です。
アイドリングを長時間続けてもオイル温度はなかなか上がっては来ません。
暖機運転のセオリーとして、ヘッドにオイルが回りストールしない程度に温まったらゆっくりと走り出して温めるのが正しいです。
空冷Z始動後のヘッド温度と油温上昇の関係については以前にも記事にしています。
特に冬場には、オイルクーラーが装着されていると、適温に上昇する迄に街乗りで30分もかかっている様な状況も多くなりますから、始動後に走り出しても急激な操作を避ける事、又チューニングで大きなオイルクーラーが装着されている様な車両では高負荷時にオイル冷却が行える半面、走行していても温度上昇は更に緩慢になりますから注意が必要です。
ちなみに、現行車両を含む他車のバイパスバルブの作動圧がどの程度に設定されているかと言えば、高年式車で良く使われるカートリッジ式のオイルフィルターの場合、フィルター内部にバイパスバルブが入っている事も多く、又、プレーンメタルクランクの都合上オイルポンプもZ系のギア式のものに対してトロコイド式等の大容量のものが装着されていますが、やはり200kpa 程度になっているものが多い様です。