こちらは、採寸の為にシリンダースリーブを抜いてあるGPz1100のシリンダーブロックです。
さて、GPz1100のシリンダーブロックの特徴として、スリーブ穴下部の壁面に溝があり、そこにOリングが入っています。
スリーブ外周を伝わってオイルが上がるのを防止する目的で、Z1系もKZ1000A迄はここにOリングを挿し込みする様になっていますが、GPzではブロック下部からは見えない部分にスリーブ圧入時にOリングが組み込みされています。
ちなみにゼファー1100等も同じ構造です。
その様に手の込んだ手法でOリングを仕込んではあるのですが、数十年も使用するとやはりスリーブ外周の切削目を滲み上がった痕跡が見えます。
このブロックは、この時点でスリーブを押しても動いてしまう様な事はありませんでしたが、長年の使用で膨張と収縮を繰り返す内に少しずつ嵌めあいも緩くなって来ます。
さて、走行条件やエンジンの仕様にもよりますが、経験上20年程度を超えるとカワサキの空冷ブロックでは緩んでいなくともこんな感じになっているものが出てきます。
個体差があるのは、ブロックの緩みは膨張と冷却の繰り返し回数の多さで決まる為で、距離より 日常的に都市部をストップアンドゴーの様に始動と停車が多ければ進行は早く、郊外を連続的に走行する様な車両はむしろ緩慢になります。
スリーブの周囲からのオイル滲み上がりが多くなると、このセンターシールの外側位置からオイルが湧いてしまう様になる為、ヘッドガスケットやセンターシールを交換してもセンター部からのオイル漏れが見られる様になります。
Zはセンターシール部分溝から必ずオイル漏れするので、対策としてここを液体ガスケットで埋めるのが正しいと言われている場合があるのですが、おそらくはそうする事でオイル漏れが緩和されたのをノウハウとされたのでは無いかと思います。
実際のところ、この外周部分からオイルが滲み出す様になったブロックは相当に緩みが来ていますので、スリーブ外周とブロック壁面の密着も低下して放熱性も悪化してきます。
余談として、滲み上がったオイルが熱を遮断してヒートを助長すると思われている場合があるのですが、実のところオイルの熱伝導性は隙間の空気よりずっと上ですから、それで冷えなくなると言うのは正しくありません。
もちろんオイルが上がる程の状態になっている事をスリーブとブロックの密着が悪くなっている目安とするのは間違いではありませんが、オイルが上がるのは、密着不足による結果です。
さて、GPz等のJ系1100スリーブの下端外径ですが、ほぼ78.2㎜となっています。
弊社の基準として、ビッグボアサイズのZ系の場合、シリンダースリーブの肉厚は2.0mm以上を保つ事を推奨しています。
2.0mmを切ってもいきなりエンジン破損になるケースと言うのはあまり聞かないのですが、これ以下になるとシリンダーの摩耗より先に下端部分が楕円に変形する事でクリアランス的に寿命が来ることが多い為です。
従って、下端部分の外径が78.2mmであれば、推奨最大径は74mmと言う事になります。
弊社で用意しているJ系(Z1100GP)やGPzピストンに75mmが無いのは、純正ブロックにボーリングのみで入れる事をお勧めしていない為でもあります。
(76mm以上の場合は寸法的にも更に大きなスリーブへの交換が必須です)