先日の記事でカムシャフト脱着時のシリンダーヘッド側雌ネジをなるべく傷めずに作業する方法を記載しました。
それでも何度か分解や組み立てを行っていると、いずれはねじ山が痛んで崩れ、適切にカムを保持できなくなります。
傷んでいる判別方法ですが、ボルトを抜き取る際に指先で軽く回して外せない場所は既にねじ山が歪んで崩れ始めていると判断するべきです。
さて、指先で回す感覚を写真や動画で再現するのは難しいので、分かり易く電動ドライバーでやってみます。
電動ドライバーの先に10mmのボックスを装着して、回転クラッチを最弱にしています。
どれ位弱いかと言えば、指先で摘まんでやるとクラッチが作動してドライバービットは回転しません。
これで、ボルトを軽く入れただけの状態から抜き取る様に回転させてみます。
奥の左側のみ回転が渋い為、クラッチが作動して回せない事がわかります。
この部分のねじ山は、見た目に何とか締め付け可能そうに見えても既に歪みと崩れが始まっています。
その部分のボルトを抜いてみたところ、一番手前部分の雌ネジが剥がれてボルトに付着していました。
こうなると間もなくここは崩れます。
最も修理の手段としてメジャーなのはヘリサート加工。
1サイズ大きなねじ山を新たに切り直してからスプリング状のコイルを埋め込みます。
コイル長さをなるべく長目(弊社の場合は3スケア)のものを使用しなければ、せっかく直しても、母材側のねじ山あたりの荷重が高くなって、今度はコイルごと引き抜けたりして修理も困難度が高くなりますので、注意が必要です。
さて、上の動画の状態ではまだ雌ネジは完全に崩れているわけではありませんので、このまま修理する事無くカムの組付けを行っても締め付け出来てしまう場合もあります。
トルクレンチを使ってやった場合でも見た目は指定トルクになったので、
「ねじ山はちょっと怪しかったけれど、何とかトルクはかかったから大丈夫」
と考えたくなるかも知れませんが、実際のところそれは締め付けトルクを測定出来ているのでは無く、スムーズに回らないボルト回転の渋さを測っているだけです。
ボルトの締め付けが本来目的としている締結力は発揮していませんし、運転中に既に傷んだ雌ネジが崩れてカムホルダーが浮き上がり、他の部分の雌ネジも連鎖的に壊してしまう可能性もありますから、軽い力でスムーズに回せない部分は修理が必要と考えた方が良いでしょう。
又、軽く回せないからとタップで切り直しても、歪んだ分を削り取ってしまうだけの事でねじ山は痩せてしまいますからその分強度は低下しています。
その状態でボルトを締めれば結局雌ネジは崩れますので、例えば清掃のつもりでタップを通した際にネジ穴手前部分のアルミが削れる様であれば同様に修理が必要な状態と考えるべきです。