エンジンチューニングを個人でされているお客様から、燃焼室容積を測定して弊社ヘッドガスケットの厚さ調整で圧縮比を設定したいのですが、測定はサービスマニュアルの様に注射器で良いでしょうかと問い合わせを受けました。
確かにZ系J系のサービスマニュアル上ではシリンジと呼ばれる大型の注射器の様なものでオイルを入れて燃焼室容積が基準値を外れていないかの点検方法が記載されています。
ただ、このマニュアルの写真で使われているシリンジはおそらく100㏄程度はあるものの様で、Z系を含むオートバイエンジンの燃焼室容積を正確に測るには正直大き過ぎかと思えます。
見る限り最小単位の目盛りは2㏄単位ですし、例えば50㏄のものにしたとしても最小目盛は1㏄単位で、コンマ台の数値を正確に読み取ったり注入するのは困難です。
例えば、ノーマルエンジンのオーバーホール時に、シリンダーヘッドが過去に大きく面研されていないか?燃焼室内を拡大加工されていないか?もしくはバルブのシートカット等で沈み過ぎて燃焼室容積が増えてしまっていないか等、確認の目安には1㏄単位迄読めれば問題無しという事で50㏄クラスのシリンジでも何とかとも言えなくもありませんが、圧縮比を正確に設定したり気筒間の燃焼室容積を比較して揃えるレベルでのチューニングとなりますと正直シリンジでは役不足です。最小単位1㏄もの誤差があると、ボアによっては圧縮比は0.3~0.4も変わってしまう場合が起こりますので、かなり精度のレベルは下がってしまいます。
その為、正確に測定する場合はビューレットと呼ばれる細長い器具を使用して液体を注入します。
写真はメーカーよりの借りものです。
通常はプロが工具屋さんや実験機材を取り扱う専門店に依頼して取り寄せる様なものでしたが、現代ではこういったものや専用のホルダーもネットショップで普通に購入可能な便利な時代になりました。
同じ50㏄のものでもシリンジ比べ遥かに細い為、その分目盛は0.1㏄単位で刻んでいます。
マニュアルでシリンジを使用する場合はオイルを使用するとなっていますが、ビューレットの先端は非常に細く液体の注入は自由落下です。圧力をかけて注入するシリンジで使う一般のエンジンオイルではあまりにも粘度が高過ぎるので、粘度の低い専用の測定液や水等を使用します。
私共は粘度が低くエンジン部品を錆びさせる心配の無い灯油を使う場合が多いです。
ちなみに、これは同じZでも4輪のZ用、S30と呼ばれる初期のフェアレディZに搭載されていたL型エンジン用のチューニングヘッドを測定しているところです。
燃焼室内を肉盛り溶接して再加工で形状変更も施された、かなりのハイチューンヘッドですが、気筒間の容積誤差がエンジンパフォーマンスに大きく関わって来る為、当然ビューレットを使用して測定しています。
先端から糸の様に非常に細く落ちているのがわかります。
シリンダーヘッドは若干傾けて、注入穴を一番高い場所にしてありますので、空気抜きの穴を別途に設ける必要はありません。
注入出来た量で燃焼室容積を測る事が出来るのですが、ここで注意事項があります。
こういった液体を使用しての測定では基本なのですが、若干でも粘性のある液体を落としてその量で測る際、管の壁面には若干の液体が付着しながら液面が下がります。
従って、燃焼室が一杯になってバルブを閉めた直後にはまだ壁面付着分は落ちていません。
特に色味の薄い液体だと見え難いのですが、0.2㏄程増えることがありますので、少なくとも数分程度は待って落ちてから読む様にした方が良いです。
又、液面の読み取りは小学校等の実験でやった通り、視線は真横位置から面の低い側を見ます。
さて、自分は全くシリンジを使わないかと言われれるとそうでも無く、5~10㏄程度の小型の針付き(人間用では無いので先端は尖っていません)のものを1つ用意しておくと、注入した液体の抜き取り時に便利です。
ある程度液体を抜き取ってからアクリルカバーを外せば、流れ出して作業場所を濡らす事もありません。