ここ何度か連続して、弊社のESTシリンダースリーブ交換に交換時の圧入クリアランスについての質問をいただきましたので、まとめておきます。
ちなみに、表面にブロックへの密着性を高める為の銅コーティングを施しているとは言え、スリーブ本体の素材は純正と同様の鋳鉄ですから特殊な圧入クリアランスと言うわけではありません。
ですので圧入時のクリアランスは通常のスリーブと変わりませんから、作業を依頼される内燃機加工のプロによるそれぞれの基準で問題はありません。
ただ、あえて数値で言えば弊社でスリーブ交換を行っていただく場合に指定する値としてはブロック側の下穴の内径を圧入するスリーブの外径に対して−0.04~−0.05mmとなる様にしています。
さて、世間一般やネット上ではZ系のスリーブの緩みについての記述は多く、少なからずそれを読まれた方は多いでしょう。
結果から言えばZ系に限らず空冷エンジン、特にマルチシリンダーのシリンダースリーブは長年使用するとその程度に違いはあっても確実に緩みが来ます。
但し、どの程度使用すればそれが起きるかと言えばですが、ここ30数年程で数限り無くZ系のエンジンを見来た経験から言えば、緩みが確実に進んでくる迄には新車時からで言えば25年程度過ぎたものが大半であったという事実があります。
この25年と言うのはそれなりに以前の話であり、以前はZ系のオーナーと言っても平均年齢層が現在に比較して割と若く、新車時からであれば年間走行距離もそれなりに多い車両が多かった時代での使用年数です。
Zがクラシックバイク化した現代では年間の平均走行距離ももっと少なくなる傾向になると思われますので、例えば今年にスリーブを適正な加工で組み込んだシリンダーブロックを製作したとするとまずそれ以上、相当な年数を普通に使えてしまうであろうという事が想像出来ます。
例えばですが、弊社で以前にシリンダースリーブを交換してオーバーホールしたエンジンを仕様変更等で分解する事もあるのですが、20年程度前に加工したシリンダーブロックを数万km程度使った程度で緩みが出ている様な物を見る事はまずありません。
従って、新規に加工製作したシリンダーブロックに関して、それなりの期間はオーナーが緩みに対して気にする必要はそれ程無いのではないかと考えています。
むしろ弊害と言えば、現在で50年近くも使ったシリンダーブロックのスリーブが緩んでしまっているからと、それが起きない様にクリアランスをきつめになる様にしてしまいたいとしてしまう事です。
ちなみに、クリアランスを小さくしても膨張と冷却を繰り返す事によっていずれ緩む特性は変りませんし、むしろシリンダーブロックの歪みやクラックの発生に位置決めする為のドエルピン間隔の拡大等、エンジンとして実用上の問題が即時発生してしまう可能性が高くなります。
従って、内燃機加工業者に依頼される際に
「Zのスリーブは緩むのでクリアランスを出来るだけきつく」
などとされるのでは無く、よく相談の上で依頼して下さい。
圧入時のクリアランスとブロックの変形については、以前にも下記の通り記事にしておりますので、そちらも参考にして頂けますと幸いです。
http://www.pams-japan.com/diary/?p=11652