以前に記事にした、インナーを変更したクラッチケーブルについては何件か問い合わせがあり、どうしても実際に使ってみたいと言われたユーザーさん用に何セットかを製作しました。
http://www.pams-japan.com/diary/?p=25092
その場合の感想としては、上記の記事の内容の通り操作が軽くなったというものもあるのですが、それ以上に言われるのは操作感、クラッチを切ったり繋いだりの感覚の向上です。
又、交換前はレリーズ廻りを含む遊び調整をしっかり行っているにも関わらずレバーを握り込んでもクラッチが完全に切れていない様な感触があったものが、ケーブル交換後は確実に切れる様になったとの事。
他の感想としては、交換前のものに比べて長時間ストリートを走っても疲れ難くなったというものですが、
これらには実は理由があります。
まずインナーケーブルの拡大写真です。
上が一般的にオートバイ用のコントロール系リプロダクションケーブルに多く採用されているもの、下が弊社でワンオフを行う際に使用しているものです。
上の物は細い線をまず数本縒り、更にそれを幾つか重ねてやる巻く事でケーブルとしてあるものです。
従って使われている線数の割に太く見えるのですが、これは線の間にある程度の空間が残る為です。
構造上このタイプは柔軟性やショックの吸収性には優れますので、何かを吊り下げて保持しておくには特に良いでしょう。
例えば地震等で揺れても破断には強くなりますし、サイズや巻き数は違いますが吊り橋等のケーブルは同じ様な構造で製作されています。
ただその反面、大きな荷重がかかっている最中には割と大きな伸びが発生し、その力を緩めると元の長さに縮みます。これがオートバイの操作系に使用した場合、タッチの悪さに繋がってしまう事があります。
対して下の物は、細い多数の線を一度に縒ってケーブルとしていますが、外周部を研磨する事で表面を平滑化しています。
しっかりと巻き固めてある分細く見えますが、実は上下とも破断に至る最大荷重には差がありません。
さて、この研磨されたものはその表面の平滑さが前回の記事の様なフリクションの低さに繋がっているのですが、それ以上に構造上ケーブルの伸び方向に対する剛性に優れます。
更にこちらのものは、ケーブルとしての成型後に一度力をかけながら更に初期の伸びを取る様に加工してあります。
この為、例えばスロットルを開ける一瞬やクラッチを切る為に握り込んで荷重がかかった際に伸びの割合が極端に少なくなり、それが上記の操作感の向上に繋がる理由です。
例えばですが、クラッチを切る際にケーブルが必要以上に伸びるとすると一気に動力を切る事が出来ませんから感覚的に遅れを感じる場合もあるでしょう。
レバーをリリースする際にも伸びたケーブルが戻る分余計に時間がかかる為に、半クラッチ状態のストロークは増えてレバーに力をかける時間は長くなりますから、特に信号待ちで発進や停止を繰り返したり極低速での走行機会の多いストリートでは、疲労度が違ってくるわけです。
さて、ケーブルで接続されている操作系に必要な力を下げる(軽くする)手段としては、例えばスロットルの巻き取り径を変更したりクラッチのレバー基部やレリーズ側のアームレバー比を変更する事でも対策する事が出来ます。
ただ、この手段を使った場合は当然操作側ストロークに対しての相手側の動きは小さくなる為、やり過ぎればアクセルストロークが極端に長くなったり、半クラッチが必要以上に長くなってフィーリングの悪化に繋がったり、レバーストロークの範囲でクラッチが完全に切れなくなったりします。
その為、それらの手法は程ほどにした上で、フリクションの低さと伸び側剛性の高いインナーケーブルを使用する事で対策してやるのが弊社での手法となっています。
ちなみに、このインナーを用いたスロットルやクラッチケーブルに関しては既に量産販売品の製作に向けての動きを行っています。