Z1000Jのジェネレーターカバーを開けたところです。
走行中に電圧が徐々に下がり気味になり、一度車両を止めたらセルモーターで再始動が出来なくなったとの事で入庫したものです。
入庫時にテスターでの点検を行った際、本来絶縁されているべきアースに対しての若干の導通が見られましたので、ステーターコイルの寿命と判断して開けたのですが、目視確認で黒焦げなレベルでないものの明らかな焼けが見られます。
この状態では発生した電力の多くはジェネレーターからレギュレータ―に流れない様になっていますから、バッテリーが上がってしまったのでしょう。
ステーターコイルの点検や良否判断の方法については以前にも記事にしていますので、こちらもご参照いただければと思います。
http://www.pams-japan.com/diary/?p=22162
この車両に関しては割と早期に充電不良の症状が確認された時点で整備に入りましたので見た目それ程惨い事にはなっていないのですが、不調に気づかないまま無理に走行を続けるとコイルとアース間のショートが進み、完全導通状態になって更に過電流がコイル内のみを巡ります。
そうなるとかなりの高熱が発生してこの様な状態になってしまいます。
ステーターコイルの消耗を抑えるには
さて、ステーターコイルの消耗状態についてはブレーキパットやタイヤ、チェーンやスプロケットの様に目で見て確認出来ないのですが、いざトラブルになるとZの様にバッテリー電圧をベースに点火系を使うバイクは走れなくなります。
”焼けない様に対策の方法は無いでしょうか”とたまに聞かれる事はあるのですが、最も簡単で確実に効果があるのは、消耗し過ぎたバッテリーは無理に使用しない事と、特に連続走行する場合には日中でもヘッドライトを点灯する事です。
実際のところ、Z系の様なクラシックバイクのユーザ―さんの多くはジェネレーターの容量の少なさを気にする為か、必要時以外は日中ライトを消灯して走行する方の割合が私共が思うより多い様です。
但し、ジェネレーターがノーマルのZ1系でも、暖気中や信号待ち等の停車中を除き正常な充電系で走行している限りは発電量が不足する様な事はありません。
又、1980年位からの北米仕様車では常時点灯ですが、その時代の車両になると停車中からどの様な走行状態でもライトを使ってもバッテリーが上がらない事が前提の発電容量になっています。
ヘッドライトを消灯するのは、停車しての暖機運転中か信号待ち等で対向車に気を使う際程度で良いかと思います。
構造上の理由は下記に記しますが、上記の2点を注意してやるだけでステーターコイルの寿命に関して良い影響が出る事は弊社でも様々な車両のデータやベンチテスト等での測定でも確認出来ていますのでお試しください。
何よりオートバイの走行中のライト点灯は安全にも繋がりますので。
充電容量の事は気にせずヘッドライトは点灯しての走行を推奨します。ステーターコイルの消耗も抑えられると考えればデメリットはありません。
ステーター消耗の理由
さて、ステーターコイルが消耗して焼けてしまう原因としてはいくつかあるのですが、最も大きな要因は熱です。エンジンそのものが内燃機関として発生する熱とは別に、ジェネレーターのコイルも発電する事で熱は発生します。
この熱は車体側で電力が必用であればある程ジェネレーターが発生せねばならない電力が増えて高くなるのですが、消耗したバッテリーを使用しているとスターターモーターでの始動時に低下した電圧もなかなか回復せず、一気大量に放出されて減った電力分をバッテリーに充電する為にジェネレーターは通常より多くの電力を発生させますので発熱量は増えます。(実はこの為少なからず燃費も悪化します)
この際バッテリーが良好なものを使用していると放電した分の復帰も電圧の回復も早い為、ジェネレーターの負荷も下がりますから発熱は抑えられます。
更に最も温度が高くなるのは、レギュレータ―レクティファイアーがそれ以上充電電圧を高くしない為に制御を行う電圧に達した時になります。
大抵の場合14.5Vから15V弱に設定されていますが、その電圧に達するとレギュレーターは車体側の電装系やバッテリーを過電圧から保護する為にステーターコイルの3本線を回路的にショートさせます。
この時端子間の電圧はゼロに近くなりますが、実は最も大きな電流がステーターコイルに流れる為に大きな熱が発生します。それが連続的になるとコイル線の絶縁被膜を徐々に消耗させます。
実はこのオートバイ用の制御原理自体は1980年前後から現代の最新型車迄のレギュレータ―でも基本的に変わってはいません。(4輪に近いオルターネーター方式等の、ジェネレーターの発電方式自体が異なる物は除きますが)初期から最新型のサイリスタタイプと呼ばれるものも、弊社が使用しているMOSFETタイプレギュレータ―も、内部素子とコントロール系の進化でエンジン回転毎の充電効率や制御の精度は大幅に上がりましたが、最大電圧時には同様にショート制御を行います。
写真は、ショート制御が連続的に入った際のステーターコイルの電圧波形です。
時々電圧がセンターのフラットになった部分でショート制御が行われています。この瞬間にコイルに流れる電流は最大になります。
又、電圧のみでは実際のステーターコイル温度がどの程度になっているかは判り難い為、弊社ではジェネレーター出力をベンチにて直接測定出来る様に治具を作り、充電制御中のステーターコイルの温度を実測で測定したりもしています。
上記波形の制御電圧到達のショート状態のまま、約3,000rpmにて15分程回し続けた場合でコイル温度は97℃と、100℃近くなりました。
もちろんたまに制御電圧迄上がった程度ではここ迄温度は上がりませんので、いきなりステーターコイルが焼けてしまう様な事はありませんが、例えば高速道路等を走り続ける様な場合には制御電圧に連続的に達し続けてしまい、ステーターコイルが過熱する可能性が高くなります。
ジェネレーターの性能を見るのに、常用回転数でライトを消灯していればすぐにレギュレータ―の制御電圧に達する程度に余裕がある事自体は望ましいのですが、それ以上電圧が上がらない様になっている状態とは言わばリミッターが効いていると考えて下さい。
例えば、軽くレッドゾーン迄吹け切ってレブリミッターが作動する様な高性能エンジンがあったとしても、そのままアクセルを開け続ける様な使い方をすればエンジン寿命は縮むであろうことは想像出来るかと思いますが、それと同じです。
さて、前述の様にヘッドライトを点灯させると若干バッテリー電圧が下がります。
そうなると制御電圧に達してコイルがショート状態になる機会は少なくなります。
ライトが消費する電力分僅かに発電の為の温度上昇とエンジンパワーの消費はあっても、制御電圧時のショート状態に比較すれば遥かにステーターコイルの発熱は抑えられる為に寿命面では有利になります。
その際のステーター波形は以下の様になっています。
この状態で15分間回し続けた場合の温度が45℃でした。
ベンチの気温は25℃ですのでほんのりと暖まっている事がわかりますが、この程度が続いた場合でコイルが焼ける事はまずありません。
これらの温度比較はあくまでベンチ上の常温状態のものですので、そのまま走行状態のステーター温度とはなりません、ただ、制御状態によるステーターコイルの発熱量の違いはご理解いただけると思います。
数値としての目安では、高速道路を連続で走行しているとして、ヘッドライトを点灯してバッテリー電圧で13V台後半から14V前後位になっていればステーターコイルの消耗は非常に抑えられていると言えます。
以下は、フルコンのロガー機能を使って高速道路での電圧を記録している例です。
5速巡航、約100kmでの実走行中に約14Vです。
又、ステーターコイルの過熱を抑える事を考えると、エンジンオイルの温度が極端に高い状態もあまり良くはありません。
特にZの様にクランクケース内部がジェネレーター室に繋がっているエンジンの場合、ケース内の温度が高ければコイルの放熱性も悪化する為です。
更に消耗してブローバイガスが多いエンジンでは未燃焼のガソリン成分がエンジンオイルにも混入する割合が高くなります。それがコイルの絶縁被膜を痛めてしまう場合がありますのでそれらにも注意は必要です。
※ヘッドライト点灯による対策についてですが、Z系の場合の例外としてツインプラグ車の様にノーマルのシングルプラグの場合に比較して電力消費を行うイグニッションコイルが倍の数に増設されている様な車両の場合は、基準の電力消費量そのものが多い為に必ずしも点灯する必要は無い場合もあります。又、インジェクション化されて増設されたフューエルポンプが電力を消費する様な場合も同様です。
それらの場合は走行中のバッテリー実電圧、13V台後半から14V前後位を基準に考えていただくと良いでしょう。
余談になりますが、ヘッドライトのオンオフ使用状態や発電を全く気にすること無く、更にジェネレーターの発電によるエンジンパワーのロスを最小限に出来る様なタイプのレギュレーターというものも存在します。
そういうもののテストやデータ測定も以前から弊社では行っていますが、それは又別途に記事にしましょう。