フューエルインジェクションと言えば、イメージとして春夏秋冬暑かろうが寒かろうがスターターボタンを押すだけで瞬間確実にエンジンがかかり、何もしなくとも静々をアイドリング開始と言うイメージがあるかと思います。
ただ、インジェクションシステム(とそれらをコントロールするECU)がそれを行えるのは、あくまでも始動時の気温、気圧、エンジン側の温度他、様々な条件下でこういう風に燃調や点火タイミングを調整しろと設定してやればこそであって、暖気終了後のマップ設定しかしていない状態であったとすると、スタートボタンを押しての初爆までもかなり難儀する事になります。
例えばキャブレター車の場合、始動時にチョークを使いながらスタートボタンを押して、初爆が起こって火が入ったら回転に合わせて若干スロットルを開いて回転を上げながら落ち着きそうなところで徐々にチョークレバーを戻すといった操作を行うかと思います。
それらはライダーが臨機応変に行えますのでキャブ時代のバイクに乗っている人は特に意識せずに行っているかと思いますが、インジェクションシステムの場合はそういった一連の操作に近い内容の事を各条件に合わせて一通り教えてやる必要があるわけです。
メーカー製の車両の場合はそれらの設定やセッティングをその道のプロが時間をかけてしっかり行われているからこそ気兼ねせずボタン一つで始動と出来るわけですが、量産車の場合はエンジン自体は基本的に同じ部品と仕様の為、100台1000台であろうとも全車同じマップと設定で出来ます。
それに対してエンジンはもちろん、スロットルボディを含むシステムそのものがワンオフのカスタム車の場合、そういったセットアップはその1台の為に行う必要があります。
ちなみに、エンジン自体が完全に冷えてオイルはもちろん内部のピストンも完全に外気温と同じ状態になっての完全冷間時の始動時初爆のセットアップは基本的に一日一回しか出来ません。
一度でも火が入れば内部は暖まってしまうからです。
従って今の時期は、日が落ちて外気温が下がってからの最初の一発目が調整のチャンスです。
初爆が起こり易いか否か、調整した結果が良かったかを判断するには翌日迄待つ必要があったりします。
この為、この領域のセッティングは1日あたりの時間こそそれ程では無いのですが、実は最も長い期間煮詰めに時間がかかる部分だったりします。
例えば、スロットルボディを変更したりカムを別のスペックに交換しただけでも結構変わる場合もあるので、確認や調整が必要になります。
又、初爆と始動がスムーズに出来る様になったとして、そこからエンジンが完全に暖まる以前にでもそれなりに走れる様、温度に応じて燃調や点火時期を変化させるセッティングも必要になります。
実はレーシングマシンやサーキット専用車の場合、それ程神経質にこのあたりをセッティングしなくてもそれ程問題はありません。
クランキングが長くかかろうがとにかく始動出来れば良いわけですし、走行を始めるのはしっかりエンジンを暖機してからだからですが、ストリートマシンの場合はエンジンが完全に暖まる前にも走行を始める場合がありますので、その部分も必要です。
これはhaltechのものですが、エンジン始動後に何秒間何度点火時期を進めて回転が上がり易くするかの設定画面
別画面で、温度毎の燃料補正設定が出来ます。
こちらは暖機終了前走行時の温度毎の加速増量補正設定。
温度毎の点火時期補正設定
これらを煮詰めていく事で、始動はセル一発。
冷間時からアイドリングは安定し、暖機後も上がり過ぎない様になって来るので、アイドルスクリューをそれ程触る必要も無くなります。