これは純正のオイルポンプです。
Z系のオイルポンプは最終の2005年型Z1000P迄の間モデルチェンジを繰り返しましたが、基本的な構造や寸法は変わらず、吸い込み口には金属メッシュのストレーナーが装着されています。
このメッシュには網目としての規格があり、弊社のオリジナルJPオイルポンプにも同様のものを使っています。
ストレーナーと呼ばれるこのメッシュの役目は、オイルポンプを即時破壊してしまう様な、例えばエンジントラブル時に割れたクラッチフリクションプレートやピストンスカートの欠片や、折れたカムチェーンスライダー等の硬くて大きな金属類を吸い込ませない事にあります。
そういったものがポンプ内のギアをロックさせた場合、クランクシャフト側からの駆動力でエンジン本体に重大なダメージが発生する事がある為です。実際純正の押し込み式ストレーナーが脱落していた為に大きな欠片を吸い込んだらしく、駆動ギアが飛びポンプボディが裂けて、クランクシャフトやケース迄を破損した例もあります。
反面そこまで至らない大きさの物はオイルと共に吸い込まれる様になっています。
異物防止とは言っても拡大するとわかる通り割と荒く、砂粒程度の大きさはそのまま通る程度ですが、これは完全に微細な異物迄侵入出来ないレベル迄メッシュを細かくすると、オイルの吸い上げ自体が困難になってしまう為です。
この為、エンジン内部で発生した極微細な金属の欠片や、オイル交換や整備時にケース内に落下した砂粒レベルの異物はどうしてもポンプ内部を通過する事になります。
極端な例としてですが、これはブローしたエンジンのオイルフィルターパンです。その上には大量の金属粒が侵入していました。
これらの大きさの異物は全てストレーナーを抜けてオイルポンプ内部を通過してきた事になります。
もちろん圧送されたオイルはオイルフィルターでろ過される為、適正な物が装着されていればそれらの異物がエンジン各部に送られる事はありません。
これは弊社で用意していますものの拡大写真ですが、μmレベルの物迄キャッチ出来ます。
さて、これはZ1で使われていた当時物のオイルポンプを分解したところです。
ギア自体は熱処理された鋼鉄製の為、長年使われても問題になる程摩耗する事はないのですが、やはりギアサイド部分のボディ側の回転方向や外周方向には異物の噛み込みによると思われるいくつかの深い傷や摩耗が見られ、オイルの圧送時にはこの傷部分から圧力が逃げてしまいます。
特にオイルが柔らかくなる暖機終了後にはその傾向は顕著になります。
この様に長年使ったオイルポンプは特にボディそのものに摩耗が生じている場合が多く、分解したとして出来る事は内部に性能上問題がある様な傷や破損が無い事を確認したり洗浄する程度です。性能を回復させる意味でのオーバーホールは出来ないと考えて下さい。
ギアの摩耗がそれほどでなければ新品のポンプボディを用意して交換出来れば別ですが、現実的にはある程度使用して内部摩耗が進んだオイルポンプは消耗品と割り切って、アッシでの交換が前提となります。
これからの暑い季節、高性能オイルやそれを冷却する為のオイルクーラーも、適正にオイルが送られていてこそ役に立つものです。
純正の蓋式プレッシャースイッチを使っている場合、ほんの僅かにでもオイルが流れているとオイルインジケーターは簡単には点灯はしませんが、ポンプが消耗していると実は走行中の流量が本来必要な量に達していない場合もありえます。
オイルポンプの整備履歴が不明であったり、性能の低下が見込まれる場合は早目の対処を推奨します。