空冷Z系のアキレス腱的なイメージもあるアイドラーギアとスライダーですが、距離を走っていてもほぼノーダメージな物、走行距離が少ないにも関わらずダメージの及んでいる物と大きく分かれます。
これは先日腰上OHの際に摘出されたアイドラーギアですが、ご覧の様に片側はベアリング部分と外周ギア部分を繋ぐ樹脂が剥離して2ピース化しています。
樹脂をベアリングと外周の繋ぎとして使い、そしてギア外周部分にも樹脂が巻かれたこの純正アイドラーは、カムチェーンの駆動音を抑える事や、エンジン自体の熱膨張によるカムチェーンテンションの変化を吸収する事等(チェーンの保護)を前提とした作りである事も考えられますが、エンジンを分解してみると、その程度の差こそあれ画像の様な状態を見る事は決して珍しくありません。
またレース等で使用される際には、微妙なバルタイの狂いによるトラブルを防ぐ為にという事で、当時から樹脂を廃したアイドラーを使用する事も割と知られている事です。
そしてこちらはパッツリと付け根部分から破断してしまったスライダー。これも割とよく見るトラブルで、上記アイドラーギアのトラブルとも割とセットだったりします。
ただ、エンジンを組んでいる方ならご存知だと思いますが、正しくテンションの掛けられたカムチェーンであれば、このスライダー部分にチェーン自体が常時触れているわけではないんですね。J系の様にサイレントチェーンを大きな樹脂製のスライダーが支える物とは異なり、Z系の場合は万が一チェーンが弛みセンタートンネル内で暴れた時にそれを受け止める、そんな役割なのではないかと考えています。
冒頭で、走行距離に比例せず傷んだ物とそうでない物があると申し上げましたが、その差はカムチェーンのテンションが適正に掛けられていたか否かで左右されているのではないかと。
強すぎればテンショナーローラーも消耗が激しくなりますし、アイドラーギアのベアリングも傷むでしょう。また緩すぎればスロットルON/OFFの度にカムチェーンが暴れ、特にエンジン前方側のアイドラーギアやスライダーを叩きつける様な現象が起きているはずです。
統計をしっかりと取ったわけではないのですが、実際フルオートテンショナーとなったMK2以降のモデルでは圧倒的にこのトラブルが少なかった様に思います。
アイドラーギアの交換にはヘッド下しが必要ですし、スライダーまで交換となればシリンダーブロックの抜き差し、即ち腰上を全て下す作業を強いられる事になります。マニュアル系テンショナーをご使用の場合は定期的にテンションの確認をお勧めします。