エンジンOHにて分解時は勿論、タペット調整等でヘッドカバーを開けた瞬間に凹まされるのが、明らかに他車からのカムホルダーが何らかの理由で使用されている場合です。
その様なケースでは、大半が程度の差こそあれカムラインにズレが生じ、カムとカムメタルの間で必要以上のフリクションが発生していたりします。当然熱も出ますしパワーロスも生まれるでしょう。更に最悪の場合は焼き付きというケースも在り得るわけです。どんなにキャブセッティングをしてもアイドリングが上手く定まらない、無理に合わせると回転落ちが悪い、ストールする等の症状も出る場合があります。
カムホルダーとヘッドは一対にてラインボーリング加工されていますから、同型エンジンであっても使い回しはアウトなんです。
勿論、カムラインにズレが生じるのはカムホルダーだけが原因というワケではなく、ヘッドその物に歪が出てしまっている場合もございます。ただ過去の事例からして上記した様なカムホルダー違いによるカムラインのズレが多いと思います。
さて、ではズレてしまったカムラインをそう修正するかというお話です。
① カムラインボーリング
② 特殊専用リーマーにてカムライン修正
③ 使用するカムシャフトジャーナルを精密ラッピング
以上の三点から状況によって使い分けます。
*① まずヘッド面をしっかりと出した上で専用治具にセット。カムホルダー着座面を一皮剥く様に研磨した後、規定トルクでヘッドと締結しラインボーリングを施します。工程も多く時間も掛かる作業の為、最もコストが掛かります。
*② これはカムジャーナル径に合わせた特殊なリーマーを使用してラインを修復しますが、厳密にはラインを出すというよりも、アタリのキツイ箇所を削り取る事でカムの回転摺動を正常な状態に戻すもので、ラインボーリングと比較すると少々荒っぽい修正方法とも言えます。
*③ いわゆるジャーナルのラッピング作業ですが、傷消しや粗度を整える事が目的ではなく、ヘッドとジャーナルのクリアランスを計測しながら、ジャーナル径を最適化する作業となります。ただしあくまでもラッピングですから大幅にズレてしまったカムラインの場合は適応できません。また、次回他のカムシャフトに交換する様な場合は同寸までジャーナルにラッピングを施す必要があります。
という流になります。
状況にもよりますが、費用対効果としては③で済ませられるのが宜しいかなと判断する事が多いです。
ちょっとココで笑い話なんですが(笑えなかったけど)、今から約20年程前のお話ですが、空冷Zやそのパーツを探し集める為に全米を走り回っていた時期がありました。町に大きなジャンクヤードがあると必ず立ち寄って何かパーツ等がないか確認していました。
ある日、サンディエゴにある町で最も大きなジャンク屋さんにお邪魔した時の事です。キレイに整理整頓された棚には数えきれない程空冷Z系のエンジンパーツが並んでいました。特にヘッドの数は半端ではなく100機前後はあったでしょうか。店主にその値段を聞くと全部持ち帰りたいと思う程安かったのを憶えています。
しかし冷静になって見てゆくと、どのヘッドにもカムホルダーがついていない事に気付きます。店主にそれを言うと「心配しなくていいよ。カムホルダーはちゃんと取ってあるから」という返事。そして店主が次に言ったのが、棚の横にある大きなバケツを指さして「あのバケツの中に山積みになっているカムホルダーの中から好きな物を台数分持って行ってくれ!」と言うのです!これには驚きました。
もう説明は要らないと思いますが、そんなレベルで日本にやってくる車両やパーツが中にはあるという事なんです。勿論それが全てではないですよ。
最近立て続けにカムラインに問題のあるヘッドに当たり、ちょっと凹んでいる所からのお話でした。