インジェクションに限らずキャブレターもそうですが、スロットルを急開して加速を行おうとする際には必ずエンジン側が要求するガソリン量を増やしてやらなければ、空燃費は極端に薄い方向に振れます。
開けても回転が上がっていかなかったり、エンジンによってはアクセルを開けてもそのままエンジンが息をついて失速してしまったりもします。
一般的にはキャブレターの場合は加速ポンプ。インジェクションの場合は加速増量設定を行ってそれに対応しています。
キャブレターが主体の時代の2輪では、加速ポンプはともかく加速増量と言う表現は馴染みが無いかも知れませんが、アクセル開度やマニホールド圧力が短い単位時間あたりに急激に変化した際に、通常の量の噴射量に対して予め設定した倍数で噴射量を増加させるという機能ですので、概念としては加速ポンプと同じです。
これは、弊社Jで加速増量の噴射量を変化させながら吹かしてみた際の動画です。
ちなみに、ベースマップに関しては既にパーシャル走行や巡航中でのセッティングは済んでいる状態で、普通にゆっくりアクセルを開け閉めして走行する分には各開度、回転数での空燃費は適正になっています。
既に暖機は終了している状態ですが、アイドリングではほぼ理想空燃費14.7に近い状態で、そこから素早くアクセルを開けても弾けるように回転は追いついてきます。
これを次に補正噴射量を絞ってやると、多少回転に合わせた開け方をしないとレスポンスが落ちた様になり、更に絞ってやると急に開くと全くついてこない様になります。
動作では最後に絞った噴射量を一気に最初の設定に戻していますので、元の様に吹ける様になっているのがわかります。
キャブの加速ポンプもそうですが、加速増量設定を上手く使ってやると、アクセル開度をさほど大きく変化させない巡航中や軽負荷運転時の空燃費はそれなりにしてやって、加速が必要な時は燃料を増やしてレスポンスとパワーを両立させてやる事が出来ます。
それではさて、加速ポンプの装備されないキャブレターの場合はどうするかと言うと、ある程度使い方によってベースのセッティングを変更する事で対処します。
例えば街乗りと高速のツーリングが重視の使い方をするのであれば、それなりについてくる程度に中間域で濃過ぎないセッティングを。
スポーツ走行をしたり、レスポンスとトルク感を優先したい場合は、予め中間常用域も濃くといった具合です。
我々が加速ポンプの無いCRキャブをセッティングする場合に、必ず走り方や使用方法をユーザーに尋ねるのはそれが理由です。
使い方に対してのセッティングの匙加減を切り分ける事で、ストリートでも使える様に対処しています。
ちなみに、昔のスーパーバイク時代のCRキャブレターセッティングは、ライダーの開けっぷりが悪いと走っているうちにプラグが煤けて吹けが悪くなってしまう程濃いものでした。当然その状態で街乗りなんかしようものなら、燃焼室もプラグも真っ黒になって使えたものでは無かったでしょうね。