これは、カスタマイズされたZのヘッドから取り出したインナーシムタペット。
ハイカムを組んで暫く使っていたら急激にヘッドからのノイズが大きくなったという事で摘出したものです。
センター部分、カム山で押される部分が齧りかけの様に摩耗を起こしています。
タペットには新品純正部品をベースWPC加工が施され、オイルも上質な物を使用さてておりサイド方向の当たりは良好です。
にも関わらずトップ部分のみがこの様になってしまった原因は、実はバルブスプリングの選択ミスによるものです。
バルブスプリングは、圧縮していくといずれ構成する鋼線同士が接触する密着と呼ばれる状態になります。 あえて一部分を密着させて共振現象を抑える方法もありますが、密着がスプリング全体に起こると当然それ以上縮む事は出来ません。
エンジンのチューニング時にはこの圧縮限界と言える全密着が起こらない範囲内で、カムやバルブスプリングを選択する必要があるのですが、全密着迄に余裕があってもそれに近付くにつれて急激にスプリングの反力が高まる場合がありますので、カムの最大リフト時の設定荷重反力には注意を払う必要があります。
特にハイリフトのカムを使用した場合、この反力が極端に大きくなってしまうとオイル他が正常でも上の写真の様にタペット側やカムを摩耗させてしまう場合があります。
本来WPC等の表面処理も、エンジン各部の組みや設定が正常であればこそ効果を最大限発揮するものですので。
一般的にエンジン性能を向上させる為の改造行為はチューニングと呼ばれますが、本来は調律と言う意味です。何かのパフォーマンスパーツを導入する場合は、バランスを取りながらのメニュー建てと設定が必要になります。
”タペットが齧ってしまうから、じゃあ強化パーツ”とばかりに更に表面硬度の高くなる様な処理をタペットに施したとしても、必要以上に荷重のかかっているという問題は解決していません。今度はどこにしわ寄せがいくかと言えば、カムホルダ部分のヘッド側ネジ山が壊れたり、カムチェーンの伸びが急激に進んだり、各部アイドラーの軸やダンパーが破損したりのループに嵌る事になりかねません。
大事なのはあくまでバランスです。