結構前のものになりますが、こちらの記事の続きです。
昔のバイクだから、空冷エンジンだからオイルが漏れる。 むしろ漏れたり滲んだりはオイルが入っている証拠とは昔からよく言われる事ですが、実際にそれが起きて嬉しいライダーなんて居るわけありません。
当然の事ながら、エンジンを組む我々自身、オーバーホールしたばかりなのにオイルが滲んで「旧車はこうなんです」なんて言葉を吐くわけにはいきません。
だからと言って漏れて来やすい場所の構造そのものを変更するのは現実的ではありませんので、素材で何とか出来ないかとは20年も昔から考えて来ました。
実際、水冷エンジンのカムカバーの様に耐油耐熱性の高いゴムで製作出来ないかと、そういったシールを製作する会社に設計と見積もりを依頼した事もあります。ただ、Zの場合は相当に硬いゴムで製作しないと、例えばヘッドカバーの場合は何処までもボルトで締められてガスケットが切れてしまったりカバーが歪む可能性がありますが、そうすると面シール性は低下してしまいます。オイルが漏れない様にする為には柔らかくシールしたいわけですので。
そこで見つけたのは純正のZ1000J系のヘッドカバーガスケットやシリンダーベースガスケット。
Z1000J系も、新車当時にはZ系と同じ様なガスケットシート材が使われていたのですが、同じJ系エンジンはZ1000Pに搭載されて25年近くも生産されていました為、途中で素材がカーボングラファイトに変更されていました。
ガスケット素材としてのカーボングラファイトの特徴は以下の通りです。
①柔軟性があり、非常にシール性が良い。
分子的には鉛筆の芯に含まれているものに近く、非常に柔らかくて滑りの良い素材ですのでガスケット面への密着性が高く、エンジンの熱膨張差により表裏双方の当たり面にずれが生じても常に追従しながらシール性を保ちます。
②熱に対する性質が優れている
耐熱性が高く、長年使用しても従来のガスケットシートと異なり全くと言ってよい程硬化しません。この為、エンジン整備時のガスケット清掃は非常に容易で作業性も良好です。
③アルミ素材への攻撃性が低い 旧来のアスベストを含むガスケット材や、ノンアスベスト素材の様にエンジンを構成するアルミ鋳造素材を腐食させる性質がありません。
以上の様にガスケット素材としての特性では非常に優れているものですので、これを使用してZ系のものを製作する事にしました。
最初は、オイルが滲むと非常にガスケット交換にしても腰上を分解せねばならないシリンダーベースガスケットから、そしてユーザーがもっとも気になるヘッドカバーガスケットの順で製作しました。
さて、弊社のシリンダーベースガスケットは10年、ヘッドカバーガスケットは販売開始してから既に8年となりますが、最も初期に使用して整備したエンジンでもオイルの滲みが生じたものを見る事はまずありません。