カムシャフトのプロフィール形状は、エンジンの性格を決める大きな要素の一つですが、リフト量が高い、作用角が大きいというだけで高性能というわけではなく、又、ピストン側や燃焼室、バルブの仕様や、その組んだエンジンの使用目的に応じたスペックを持つものを使わなければ、カタログ上ハイスペックだったとしても走行条件によってはひどく扱い難かったり肝心なところの力が無いと言う事にもなりかねませんので、条件にマッチしたものを組む必要があります。
さて、カムシャフトの選択で困るのが、各メーカーのスペックシートの書き方の違い。
例えば作用角一つにしても、完全にベースサークルからリフトし始めの角度で書いてあったり、1mmリフト時で書いてあったりと結構まちまちで、同一条件での比較が出来ません。
又、最大リフトのみであればスペックシートに記載は大体ありますし、ノギスやマイクロゲージで測れば事足りますが、作用角度内でのリフトの過渡カーブについては実のところまともに記載してくれているところの方が少ない位です。
リフト量が同じであれば、目視でカム形状の丸さや尖り加減で比較は出来ますが、カーブが似通っていたり、リフト量が違っている場合ははっきり言って目視では難しいです。
そういった場合はこうやって測ります。
Zの場合はカムがタペットの平面を直接押す構造ですので、ダイヤルゲージでは無く、平面高さ面を正確に測れるタイプのハイトゲージが必要です。
各種のエンジンを組む都合から、以前にも同様の方法で各カムシャフトのデータは大まかには取得してあったのですが、今回はちょっと理由がありまして更に精密に測定します。
中心にカムスプロケットと同じ大きさの穴加工を施した大き目サイズの全周分度器を装着し、ロブセンターを確認した上で0.5度ずつ(クランク角度では倍の1度)カムを周回させてリフト量を測定します。
カムの当たりは以下の写真の様にまずタペットの中心部近くから、回転するに従って外周近くに、そして更に回転して最大リフトに近づくに従って再度中心近くに戻り、
そこを過ぎると再度外周へ、そして又タペット中心近くに戻ってバルブを閉じます。
上の写真を参照いただいた上で、バルブクリアランスを広めに取ったとすると、カムプロフィールによってはカムがタペットに当たり始めるのは2段目写真の様にタペット中心部からかなり離れたところになり、更に回転するカムは中心軸より遠いところほど速度が高くなりますが、それが一気に接触する事になります。それがアイドリング中にカムがタペットを叩く音が大き目に出る理由の一つです。
逆にバルブクリアランスを小さめにすると、カムの当たり始めは1段目のタペットの中心部近くになり、更に相対速度は遅い中心近くになりますので、静かになります。
さて、結果として採れるデータはこの様になります。
(基本は1/100mm単位で、補正計算で5/1000が入っています)
更にそれをグラフ化するとこんな感じになります。
青い線がヨシムラさんのところのST2,赤い線はwebcamの435
リフト量はヨシムラ10mmに対してwebが約11mmと明らかに大きいですが、作用角と初期の開き加速度はヨシムラの方が大きく上回っています。
ちなみにこれ程開き始めの性格が異なると、バルブスプリングのセット加重設定も異なってきます。
さて、このカム比較によってどちらが良いという事もありません。
最初に書いた通り性格の違いを表しているとご理解ください。バルブタイミングやポート形状にバルブの傘径、ピストンヘッドの形状や圧縮比設定、エンジンの仕様を決める要素は他にも多くありますし、何より乗り手の好みや使用目的が違えば何が良いという基準も変わりますので。